「捜査を回避するためには選挙するしかない」 事件化前に自民幹部が進言した「幻の衆院解散」とは【裏金政治の舞台裏①】
裏金問題に関する警戒度は低かった岸田首相ではあるが、解散自体を諦めていた訳ではなかった。照準を合わせていたのは昨年の通常国会会期末の6月解散だった。5月22日に閉会した先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の成功を追い風に、野党の内閣不信任案提出に合わせて解散を表明するシナリオだ。 日経平均株価は3万円台を回復し、内閣支持率は回復基調を示していた。党本部が5月下旬に実施した情勢調査は自民270議席超だった。2021年10月の衆院選で追加公認を含め、国会運営を主導できる絶対安定多数を確保した261議席を上回る「衝撃の数字」が出た。 呼応するように自民党の森山裕選挙対策委員長(当時)は6月3日の講演で「総理が国民に信を問うと決断したら、いつ解散になってもおかしくない」と力を込めた。岸田首相も13日の記者会見で「諸般の情勢を総合して判断する」と発言した。それまで繰り返してきた「今は考えていない」との留保が消えたことから、永田町に解散風が一気に吹き荒れた。
だが、その2日後には政権幹部に解散見送りの考えを伝達した。そして「今国会での解散は考えていない」と官邸で記者団に公言した。マイナンバーカードを巡る相次ぐトラブルや、衆院選の候補者調整を巡る自民、公明両党の対立が深刻化し、東京での選挙協力が解消されるなど懸念材料が山積していたためだ。長男が公邸内で親族と忘年会を催し、記念撮影をしていた問題も響いた。 岸田首相周辺は「一時はその気だった。今考えたらベストなタイミングだった」と悔やむ。 ▽11月がラストチャンスだった 次に模索したのは10月20日召集の秋の臨時国会中の解散だ。9月に内閣改造・党役員人事に踏み切ったものの、派閥のバランスに苦慮した人選は政権浮揚につながらず、報道各社の世論調査は不支持率が支持率を上回る構図が固定化しつつあった。 それでも情勢調査では250議席程度の獲得が可能だ、とする報告が党執行部に伝わる。岸田首相には2パターンの選択肢があった。①物価高に対応する経済対策のメニューを示した上での臨時国会冒頭②財源を裏付ける2023年度補正予算の成立後―。10月30日は衆院議員任期の折り返しを迎える時期でもあった。