キノコ菌糸から国産マッシュルームレザー 長野の企業、動物革より環境優しく商機に
キノコの菌糸を培養し、革に似せて仕上げた素材「マッシュルームレザー(ML)」の国内生産に、長野県の新興企業が乗り出した。菌糸が生み出す唯一無二の色合いに加え、牛など動物由来の皮革製造より環境に優しいのが特徴だ。新たな商機につながるとみて、MLの実用化を目指す。全国有数のキノコ産地から新たな挑戦が始まった。 取り組むのは長野県小諸市のマイセルジャパン。キノコ関連の国内3社が、シンガポールとインドネシアでMLの研究開発や製造を担う企業と共同出資し、2022年7月に設立された。 マイセル社取締役の小渕皇太(おぶち・こうた)さん(35)は、群馬県みなかみ町でキノコ栽培袋などの製造販売を手がける。「国内外の技術が集結すれば『食』だけでなく『衣』『住』の分野にも広がる可能性を感じた」と振り返る。 ML作りは、糸状の細胞の集まりである菌糸の培養から開始。成長した菌糸の表面をすくい取り、動物の皮をなめすような工程を経て、革の質感に似た生地が出来上がる。菌糸の生育状態で白と茶色のまだら模様は全て異なる。
動物の皮に比べ、加工時に環境へ与える負荷は小さく、使用する水は4分の1程度。100%天然で、羊の革に匹敵する耐久性を持つとされ、小渕さんは「究極のエコ素材」と太鼓判を押す。 2023年11月に小諸市の工場が稼働。日本初のMLの量産態勢が整い、アパレルやインテリア業界から問い合わせが相次いだ。経年変化や手入れ方法の研究といった課題はあるものの、小渕さんが次に見据えるのは、キノコ生産者にMLの製造工程を一部提供するフランチャイズ化構想だ。 培養に必要な機材やスペースは生産者の手持ちでほぼ対応でき、新規参入のハードルも低い。「キノコ業界や農業の活性化に一役買い、食文化も守りたい」。小渕さんの夢は膨らむ。