【イマドキの大学ゼミ】女王アリの「フェロモン」を研究する 驚きの産卵「分業化」社会
アリは、陸上の生態系で最も繁栄しているグループの一つだといわれています。その成功の理由は、お互いが協力し、役割分担をしていることだと考えられています。関西学院大学生命環境学部の北條賢教授の研究室では、アリが持つ組織的社会の仕組みや、他の生物との共生関係について研究しています。大学院理工学研究科1年の宮本萌さんに、研究の様子や研究室の特色について聞きました。 【写真】昔のイメージとは大違い? 女子高生に人気の意外な大学
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ■研究室データ■ 関西学院大学生命環境学部生物科学科 化学生態学研究室 研究分野:フェロモン、コミュニケーション、動物行動、社会性昆虫 学生:16人(男10人:女6人)(2024年4月時点) ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
女王フェロモンで繁殖力を抑制
アリは、女王とその娘 (働きアリ) が集まって組織的な社会をつくる「社会性昆虫」と呼ばれています。北條教授の研究室では、アリ社会の協力関係がどのように生まれているのか、どのように進化してきたのかを研究しています。そのなかで宮本さんが取り組んでいるのが、「クロオオアリにおける女王フェロモンを介した繁殖分業メカニズムの解明」というテーマです。 アリ社会は、個体を生産する女王と、エサを取ってきたり幼虫を世話したりするワーカー(働きアリ)に階級が分かれています。ワーカーも卵巣を持っているので卵を産むことができますが、女王がいると産卵が抑えられ、産むのは主に女王の役割になります。つまり、アリ社会では繁殖が分業化され、役割分担が行われているのです。 では、なぜ女王がいるとワーカーの産卵が抑制されるのでしょうか。宮本さんはこう話します。 「女王が自分の繁殖力に応じて女王フェロモンを分泌し、それをワーカーが知覚することで自分の産卵を抑制しているといわれています。実験では、フェロモンを暴露したワーカーと、暴露していないワーカーの繁殖状態や遺伝子の発現量(遺伝子の情報が機能する形に変換されること)状態を比較します」 学部4年の卒業研究では、人工的につくったアリの巣に、女王とワーカーを入れた実験区と、ワーカーのみで女王がいない実験区を設けて比較しました。頭部をすりつぶしてRNA(遺伝情報の伝達やたんぱく質の合成などを行うリボ核酸)を抽出し、その一部をPCR(DNAサンプルの特定の配列を増やす方法)で増幅させて特定の遺伝子の発現量を調べたところ、確かに違いが見られることがわかりました。 大学院に進んだ今年は、研究をさらに進めて、女王フェロモンの物質を自分で合成して実験に使う予定です。ガラス棒の先に女王フェロモンの物質をつけてアリの巣に差し込み、ワーカーが女王フェロモンを感知できる状態にして調べます。