【イマドキの大学ゼミ】女王アリの「フェロモン」を研究する 驚きの産卵「分業化」社会
キャンプ場で、アリの巣探し
実験を始めるには、アリを採取してこなくてはなりません。これが実は大変な作業で、研究室のメンバーが協力し、兵庫県三田市にある大学のキャンプ場などにスコップを持って行きます。巣を見つけて地面を掘っても女王が見つからなかったり、女王を傷つけてしまってコロニーすべてが使えなくなったりして、一日中、格闘しても、全く収穫がないこともあります。 宮本さんが実験に使うのはクロオオアリですが、アミメアリの行動を調べている人もいれば、アリとシジミチョウの共生関係を研究している人もいて、それぞれのテーマに適した種類のアリを使います。クロオオアリは宮本さんを含めて3人の学生が使うので、数百匹規模の巣を3個採集しました。実験の準備をする4月には、毎日のように採集に行ったそうです。 捕まえてきたアリは研究室で飼育します。このような共同作業があるので、別々のテーマを研究している学生同士が関わりを持つことができます。それも研究室の魅力だと宮本さんは言います。 「自分が取りに行ったアリを他の学生が使っていたら、『どんな実験をするの?』と声をかけます。研究テーマや実験方法についても情報交換して、いいところはお互いに取り入れています」 生き物が好きな学生が集まっているので、捕まえてきたヘビを見せてくれる人、研究室でなぜか魚を飼っている人もいます。アリの巣を掘りに行っても、珍しい昆虫がいると、みんな撮影に夢中になってしまうそうです。
失敗から考える、新たな可能性
宮本さんは高校生のとき、目に見えない自分の体内や、昆虫や動物の体の仕組みを知りたいと思い、生物学に興味を持ちました。関西学院大学の理工学部生命科学科※に入学し、4年次に北條教授の研究室に入りました。同研究室が昆虫の生態や行動などの分野から、遺伝子など分子レベルのミクロな分野まで、生理現象を幅広く研究しているところに惹かれたといいます。 ※2021年4月、理系4学部開設。この学部学科名はこれ以前のものです。 研究を始めてみると、自分が知りたいことを明らかにするには学部だけでは足りないと思い、大学院への進学を決めました。 北條教授との対話は、宮本さんにとって大きな刺激となっています。 「実験で予測通りの結果が出ないと、失敗したと思って落ち込むことがありますが、先生は逆に『こういうことが考えられるんじゃない? こういう可能性があるんじゃない?』とワクワクされているんです。一つの考えに固執するのではなく、物事をいろいろな角度から解釈することが大事なのだと感じました」(宮本さん) 昨年の実験では、女王がいる実験区で多くのワーカーが卵巣を発達させているという予想外の結果が出てしまい、教授に相談しました。すると、卵が形成される前段階の卵巣と、卵が形成された卵巣を分けて評価することを勧められ、そうしてみると女王存在下のワーカーでは明らかに卵形成が抑制されているという結果になりました。 「こうした経験を通して、自分で考えるだけではなく、先輩や同級生と積極的にコミュニケーションをとるようになりました。『自分はこう思うけど、どうかな?』と意見を聞くと、自分にはなかった視点や考えが必ずもらえるんです」 宮本さんは、修士課程を終えたら食品メーカーで研究開発の仕事をしたいと考えています。また、アリのミルクサプリがつくれないかと妄想しています。ミツバチのローヤルゼリーのように、アリのさなぎがミルクのような物質を分泌するという海外の研究結果があるからと言います。興味はどんどん広がっています。
朝日新聞Thinkキャンパス