山梨県の高校生は「バイク通学」が多かった! いったいなぜ?
山梨独特のバイク文化
山梨県のとある文化が、『スーパーカブ』(トネ・コーケン著、イラスト:博)というタイトルで小説と漫画になり、2021年にはアニメ化もされた。 【画像】えっ…! これが60年前の「甲府駅」です(計11枚) この作品の主人公は、ホンダのオートバイ「スーパーカブ」で通学する山梨県の高校生だ。また、同じく山梨県を舞台にバイク通学の高校生たちがキャンプを楽しむ『ゆるキャン△』(あfろ著)を思い出す人も多いだろう。 本稿では、これらの物語に描かれている山梨県独特とも言える「高校生のバイク通学文化」が広まった理由と、それにまつわる波乱万丈を明らかにしていきたい。
バイク通学が日常の山梨県
みなさんは学生時代、どのような交通手段で通学していただろうか。日本では16歳から原付・普通二輪車の免許を合法的に取得できるが、通常は電車、バス、自転車、徒歩のいずれかの方法で通学していたはずだ。しかし、山梨県では「バイク通学」も一般的である。 実際、山梨県は高校生の免許保有率が全国でもトップクラスだ。『スーパーカブ』の主人公・小熊や『ゆるキャン△』の主人公・リンのように、高校1年で免許を取得してバイク通学する生徒も多い。『スーパーカブ』で描かれたような 「自転車で通学する高校生が、バイクでやってきたクラスメートに追い抜かれる」 という、他県ではあまり見られない光景が日常化している。 バイク通学の割合は立地条件などにもよるが、自転車の駐輪場とバイクの駐輪場が合体した大型の立体駐輪場を持っている高校は珍しくない。 では、なぜ山梨県では高校生のバイク通学が一般的になったのだろうか。
鉄道空白地帯と通学事情
山梨県の高校生にバイク通学が広まった理由のひとつに、県の諸事情で「3ない運動」が盛り上がらなかったことがある。3ない運動とは1980年代に始まった運動で、高校生にバイクの ・免許を取らせない ・乗せない ・買わせない というものだ。この運動が盛り上がらなかった理由は、山梨県の ・地形的な制約 ・それによる公共交通のカバーエリアの少なさ による。 山梨県は首都圏の西側にあり、山に囲まれている。高校の多くは ・盆地のなかにある「甲府エリア近郊」 ・観光地として知られる「富士吉田エリア」近郊 に集まっており、社会人の勤務地も同エリアに多い。つまり、山梨県民の多くは毎朝「特定の地域」に向かっているのだ。 また、山梨県の高校は全県1学区であるため、遠方に通学する生徒も多い。しかし、甲府市周辺に直接向かう鉄道は ・JR中央本線 ・JR身延線 の2路線しかない。富士吉田市近郊には富士急行線しか通っていないため、鉄道空白地帯も多い。特に甲府盆地は、狭い盆地に市街地が広がっているため、地形の特性上、公共交通が発達しにくい。 甲府盆地では、鉄道空白地帯を埋めるように路線バスが走っているが、その路線の多くは甲府市の中心部を経由する。狭い盆地ゆえ、甲府駅前(平和通り)など一部を除き、中心部の主要道路は片側1車線か2車線しかないところが多い。そのため、毎日のように渋滞が起き、バスは遅延する。 さらに、甲府盆地の外郭や峡南地域などの中山間部では公共交通での通学は難しく、自転車での通学も地形的に難しい。甲府市中心部で頻発する交通渋滞を避けるために、小回りの利くバイク通学を選ぶ生徒が多いのも納得できるだろう。