母親が年金を受け取る前に認知症になりました。年金の請求は長男の私が手続きしてもいいのでしょうか?
年金受給の請求手続きは代理でできるのか
年金受給の請求手続きは、代理人でもすることができます。ただし、代理人がする場合は、委任者本人(今回の相談の場合は、Aさんの母親)が作成した委任状を提出する必要があります(※2)。 委任状は、本人の意思で作成する必要がありますので、Aさんの母親が委任状を作成できないほど認知症が進んでいた場合は、年金受給の請求手続きができないことになってしまいます。 ところで、銀行が本人に十分な判断能力がないと疑った場合は、本人名義の口座が凍結される可能性があります。これは、銀行が家族を含む他人による不正な引き出しや解約などを防ぐために行われます。 たとえ委任状が作成できて、無事に年金受給請求の手続きが済んで本人名義の口座に年金が振り込まれても、Aさんの母親が銀行から認知症を疑われた場合は、年金を引き出せません。たとえ年金受給の請求手続きができたとしても、本人の生活費や医療・介護費などの費用は家族が立て替えることになります。 なお、年金の受取口座は、年金受給者本人名義に限るので、Aさんの口座で年金を受け取ることはできません(※3)。
成年後見人制度
Aさんの母親が、認知症によって委任状を作成できないことから年金受給の請求手続きができない場合や、銀行がAさんの母親の判断能力を疑って年金を引き出しできない場合は、「法定成年後見人制度」を利用する必要があります。 成年後見人は、本人の代わりに財産管理や契約行為をサポートします。申立ては、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に本人、配偶者、四親等内の親族などのほかに市区町村長がすることができます。 成年後見人は家庭裁判所が選任しますが、弁護士、司法書士、介護福祉などの法律や福祉の専門家のほかに、家族がなる場合があります。成年後見人は、本人が法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為をあとから取り消したりできます(※4)。
まとめ
Aさんの母親のように、本人がすでに認知症になっていた場合は「法定成年後見人」が就任することにより、年金受給の請求手続きや本人名義の口座からの引き出しができるようになります。 厚生労働省研究班によると、2030年には523万人が認知症の患者になると推定され、高齢者の14%を占めるとされています。Aさんのようなケースは今後ますます増えていくと考えられるので親が認知症になってから慌てないようにしましょう。 認知症になるリスクに備えて、あらかじめ本人が選んだ人を後見人に指名する制度(任意後見人制度)(※5)もありますので、併せて検討しましょう。 出典 (※1)日本年金機構 老齢年金の請求手続き (※2)日本年金機構 年金相談や手続きを代理人に委任するとき (※3)江東区 年金の受け取り先を変えたいとき お手続きに際しての注意点 (※4)厚生労働省 成年後見はやわかり 法定後見制度とは(手続の流れ、費用) (※5)厚生労働省 成年後見はやわかり 任意後見制度とは(手続の流れ、費用) 執筆者:篠原まなみ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP認定者、宅地建物取引士、管理業務主任者、第一種証券外務員、内部管理責任者、行政書士
ファイナンシャルフィールド編集部