農業ベンチャー社長が語る「農家はやめとけ」とみんなが言う本当の理由
「農家はやめとけ」とみんなが言う本当の理由
小竹:卒業後は「すぐに農家になる」と思っていたのですか? 西辻:大学4年の終わりに、農家になろうと思っていろいろなことをやるのですが、就職活動にはもちろん農家なんてないんです。 小竹:そうですよね。 西辻:とりあえず、以前に農家はやめとけと言われた高槻農場の先生に「どうしても農家をやりたい」と言ったら農家を紹介してくれて、京都の宇治や山城のほうの農家さんに「農家になりたいんですけど」って言ったら「やめとけ」って言われるんです(笑)。 小竹:農家の人にも(笑)。 西辻:「お前みたいなインテリには無理」とか「ひょろひょろしているから無理」とか言われて、どうしようと思っていたときにJAさんを思いついたんです。京都のJAさんに行って「農家になりたいんです」と言ったら「ここは金融の窓口です」って(笑)。JAバンクに行っていたんです。 小竹:それでどうしたのですか? 西辻:そのまま卒業式も終わり、いわゆるニートみたいなときに、大学の掲示板に「今からでも間に合う、あと2週間」みたいな感じの求人を見つけて、何の会社かよくわからないまま、これに申し込んでおこうと。 小竹:そこは急に妥協しちゃうんですね(笑)。 西辻:一抹の怖さがありました。社会に放り出されて仕事がないのは怖いと思ったので、とりあえず入れるところに入ろうという感じで入ったのが、ネクスウェイという会社です。 小竹:どういう会社ですか? 西辻:入ってからわかったのですが、リクルートの子会社でした。当時リクルートさんはFAX回線を売っていて、その営業です。「ファックス回線は絶対にこれから世の中からなくなると思うけど」と感じながら、沈みゆくマーケットの中で営業を頑張っていました。 小竹:それは楽しかった? 西辻:リクルート系の会社なので「あなたが何がしたいの?」ってすごく詰められるんです。そのときに「農業がしたい」と言うと、「いいじゃん!うちで修行すれば?」って言われたんです。だから、僕は修行だと思っていたので、何をやらされても修行という考え方をしていました。 小竹:いつか役に立つかもしれないということですね。 西辻:研修のときも「3年後に農家になりたいから必死で働く」というのをずっと言っていて、周りからは「頑張りなよ」って言われていました。 小竹:そこで必死で頑張ったことで、今の事業に活きていることはありますか? 西辻:3年と言っていたのに1年で辞めちゃったのですが、そこで世の中を知ることができたのはすごく大きいと思っています。配属が東京で、初めて東京に来たときに、名刺を道端で配って来いって。 小竹:本当にリクルート型の古い会社だ。 西辻:名刺獲得キャンペーンみたいなことで、秋葉原でずっと配っていたのですが、名刺をたくさんもらうにはどうしたらいいかと考えたときに、名刺を簡単に渡してくれるところに行けばいいと思って、飲食店ばかりに行ったんです。店長だったら名刺くれるかもって。 小竹:なるほど。 西辻:それで秋葉原の飲食店を回って名刺を獲得していたのですが、初めてあんなにたくさんの飲食店のバックヤードに入ったんです。当時は野菜とかが段ボールでガサッと置かれて地面に並んでいたり、ゴミ箱には廃棄されたものがすごく多かったりとか、都会はえげつないことをしているという気づきがあったのが、今の仕事につながる大きなポイントになった気もします。 小竹:そのときはそういう気づきが役に立つと思っていました? 西辻:いやいや。「農家になりたい」と言ったときにみんなが「やめとけ」という理由をずっと探していたのですが、秋葉原の飲食店を見て「これだ」と思いました。リスペクトされていないから捨てられているんだって。 小竹:野菜とかがね。 西辻:農家の人たちが「やめとけ」と言うのは、自分たちの野菜をリスペクトしてもらっていないと感じているのではないかなと。そのとき僕は22歳なので、商売の話は全然別ですけど、リスペクトされていないから気持ちが萎えちゃっているんだなって思いました。 小竹:されていないし、農業に関わる方も自分の仕事に対してのリスペクトがない。 西辻:リスペクトは評価に変わり、やがてそれがお金に変わると思っていて。だから、農家は儲からないというのが僕の根底に流れる考え方なんです。つまり、農業は儲からない仕事と言われるけど、全てそれは消費者の方の評価が低いからだと思っています。それが今のマイファームの仕事にすごく関わっています。 小竹:これは勝手な偏見かもしれないですが、秋葉原とかだと生産者の現場まで目が届く意識を持ったオーナーさんはそんなに多くない印象があります。 西辻:うんうん。僕の地元の福井県でもし飲食店があったとすれば、近くの八百屋さんから取るとか、生産者の人から直接買っているかもしれない。だから、関係値がすごく近いから良くなってくる。それが秋葉原だと一番遠いところにいる感じになってしまうので。 小竹:それは料理も近いと思います。作ることについてのリスペクトがないという私の中の課題があって、簡単便利に手軽にすればいいという流れがありますが、料理はもっとクリエイティブで楽しいと感じています。 西辻:そうなんです。「作る」と「食べる」の分断がある。これがなくなればいい世の中になりますよ。 (TEXT:山田周平)