まるで別物! スバルのストロングハイブリッド、クロストレックは走りがいい
年末12月を迎え、いよいよスバルのクロストレック・ストロングハイブリッドが正式発表された。トヨタから譲り受けたハイブリッドシステムTHSIIをスバルならではの縦置き水平対向4気筒ユニットと組み合わせ、排気量もアメリカ仕様の2.5Lにスケールアップ。大排気量化とストロングハイブリッドにシンメトリカルメカニカル4WDシステムを合体させたことで、これまでのHEVモデルでは為し得なかった『攻め』の環境性能モデルが登場する。 TEXT:瀬在仁志(SEZAI Hitoshi)PHOTO:山上博也(YAMAGAMI Hiroya) スバル最新・最強の環境対応オールラウンダーモデルとして大ヒットの予感 ストロングハイブリットを積んだアウトトレック・プロトタイプの試乗会は、スバルらしくこちらも『攻め』の環境で行なわれた。 舗装のハンドリング路はシーズンオフのスキー場ゲレンデ脇に設けられた連絡路で、狭くてコーナーもきつく、勾配も大きい。ラリーでも使わないだろう、と思えるようなタイトな設定だ。 ストロングハイブリッドでも機械式AWDにこだわるスバル。新型クロストレックe-BOXERの走りは? それ以上の悪条件だったのはダートコースで、昔のサファリラリーでよく見かけた、水をいっぱい含んだ赤っ茶けた粘土のような路面。雨が降り続いた直後とあって、止まってしまうとズブズブと沈んでいってしまいそうで、退路を断たれたような心境だ。 いくらクロストレックがたっぷりとったロードクリアランスや大径タイヤを履いていたとしても、ダート路に関しては無茶だろう。と思った。 とはいえ、まずは広くてしっかりと舗装された駐車場で肩慣らし。現行のマイルドハイブリッドモデルとの比較で言えば、圧倒的にプロトタイプが良い。現行クロストレックモデルに乗っている人には申し訳ないが、所々出くわすひび割れ路や穴ぼこに入っても振動が伝わりにくく、ボディのしっかり感が一層向上し、ひとクラス上の上質さが感じられる。 しっかりとしたボディに支えられたサスペンションは、段差を足元だけでスクッと一瞬で吸収し振動を残さない。ダンパーに無理な力が加わらず、最大限の効果を発揮してくれている印象だ。ボディにはわずかな揺れが感じられる程度で、ほとんどがタイヤとサスが吸収してしまう。現行モデルのブルッとくる振動やばたつき感が解消されているのがいい。 走りの上質感も身につけた 大きなタイヤやホイールの重さも気にならない。 技術者にその点を聞くと、リヤダンパーのロッドの可動領域拡大や追加バルブを採用したことで、剛性と減衰力を高められた効果、という。アームのブッシュ類等を見直したことで、微小領域から高負荷領域まで安定した姿勢制御が可能になったことが、ボディをフラットに保ち、外乱にも強くなったらしい。ストロングハイブリッドの採用によって、環境性能の進化と同時に、走りの上質感も身につけたといえる。 パワーユニットの特性的には、従来のスバルのATやTHSII特有の加速とエンジン回転がリンクしない、いわゆるラバーフィールから解放されたのが一番のポイントだ。初期の加速はモーターが主体となり、低中速域からはエンジンに火が入って加速をサポートするが、加速感と回転上昇の波が同期している。さらに回せばエンジンが主体となって、加速に伸びをみせ、モーターとエンジンの良いところがしっかりと生かされている。 もっともスバルらしく走りにこだわった味付けによって、燃費の向上代は従来モデルに比較して、2割アップにとどまり、同じTHSIIを採用するモデルのような数値は残していない。それでも燃料タンク容量を48Lから63Lへと拡大し、WLTCモード上の計算ではフルタンク状態で1000kmを軽く超える航続距離を可能にしてくれているのはありがたい。 e-BOXER マイルド vs ストロングハイブリッド燃費比較 タイトなゲレンデコースに行くと、安定感の高さと正確なハンドリング性能に助けられる。下りながら大きく切り込んでいくようなコーナーで右足をスッと抜くようなケースでもリヤが落ち着いていることで、針の穴を通すようなラインに飛び込める。そして、微少な速度維持を行なう際には、モーター特有の滑らかさで旋回姿勢を保ち脱出進路にのせていける。 上りのシーンでは事前に確認済みのエンジン特性の良さが生きて踏んで曲がっていける。回している領域では、ちょこちょこと右足をコントロールすることで、自然吸気エンジンレスポンスの良さを味わえて扱いやすい。ラバーフィールがあるとタイムラグがあって駆動力不足となって進路が定まらないが、このストロングハイブリッドモデルはエンジンの良さをしっかりと味わえる。期待ほど燃費が伸びなくても、個人的にはこのの味付けが好きだ。きっとスバルファンにも支持されるに違いない。 ダート路面は見事に泥遊び状態となった。一度コースに入ってしまうとタイヤは泥を纏ったチョコリングのような状況で、M+Sのタイヤの表面はもはや見えない。機能はは絶望的だ。にもかかわらず、右足に力を込めた瞬間から4輪は路面を蹴り上げて、バタバタバタとタイヤの泥を振り払い、ボディを瞬時に前進させる。メカニカル的にリヤへも駆動力が伝わっていることで、力強さは継続されるし、速度維持もたやすい。 結果、迷うことなくステアリングを切り込んで行きさえすれば、波にのったボートのようにゆったりと進路を保ってくれる。さすがタイヤのグリップ感は得られないが、ボディ全体で舵を取るように向きを変えていけるのはリヤに積極的に駆動力を流しているスバルのメカニカル4WDだからこそ。駆動力が前後にいったり来たりする他のオンデマンド4WDやリヤモーター4WDモデルでは叶わぬ駆動力特性だ。 エンジン 形式:水平対向4気筒DOHC+モーター 型式:FB25 排気量:2498cc ボア×ストローク:94.0mm×90.0mm 圧縮比:11.9 最高出力:160ps(118kW)/5600pm 最大トルク:209Nm/4000-4400rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:63L 駆動用モーター:MC2型交流同期モーター 最高出力:88kW(119.6ps) 最大トルク:270Nm 駆動用バッテリー:リチウムイオン電池 容量1.1kWh トランスミッション:リニアトロニック THSIIと2.5Lエンジンを手に入れたストロングハイブリッド・クロストレックは見た目の上では従来のeーBOXERと大きな違いはないが、その中身はまるで別物。走りにこだわるスバルらしく環境性能を整えつつも、ゆとりが出たパフォーマンスの多くを走行性能の進化に注いでくれた。スバルファンにとっては願ってもない環境性能モデルだと思うし、もう少し走りにこだわりたい現状のマイルドHEVユーザーの心も掴むに違いない。大ヒットの『予感』は決して大げさではないと思う。 ボディカラーは8色 SUBARU クロストレック Premium S:HEV 全長×全幅×全高:4480mm×1800mm×1575mm ホイールベース:2670mm 車重:1660kg サスペンション:Fストラット式/Rダブルウィッシュボーン式 駆動方式:4WD エンジン 形式:水平対向4気筒DOHC+モーター 型式:FB25 排気量:2498cc ボア×ストローク:94.0mm×90.0mm 圧縮比:11.9 最高出力:160ps(118kW)/5600pm 最大トルク:209Nm/4000-4400rpm 燃料供給:DI 燃料:レギュラー 燃料タンク:63L 駆動用モーター:MC2型交流同期モーター 最高出力:88kW(119.6ps) 最大トルク:270Nm 駆動用バッテリー:リチウムイオン電池 容量1.1kWh トランスミッション:リニアトロニック 燃費:WLTCモード 18.9km/L 市街地モード15.4km/L 郊外モード20.6km/L 高速道路モード19.7km/L 車両本体価格:383万3500円(ルーフレール装着車388万8500円)
瀨在 仁志