「ガンダム」生みの親・安彦良和氏が語る戦後日本エンタメ史の知られざる裏側
――作品には、魅惑的な女性キャラクターが多々登場します。 女性を描くのははっきり言って苦手だ。女性の気持ちはなかなかわからないから、男性から見た女性として、勝手に理想化してしまうきらいがある。 今のフェミニズムは、女性という性を超越しようというふうに見えて、ちょっと苦手だ。好きなのは、もっと原始的(プリミティブ)なフェミニズム。 『魏志倭人伝』には、男性の王ではクニがよくまとまらないときに、女子を擁立したらまとまったと記されている。もっと遡れば、『はじめ人間ギャートルズ』に描かれているように、狩りに行った男性が空手で帰ってきたら、貫禄のあるお母さんが「甲斐性なし!」と叱るような、家でどっしりと構えている女性たちの姿があったのではないか。
これが要するに、「原始、女性は実に太陽であった」ということだ。男性との役割分業があったとしても、それは差別ではなく、女性が大きな存在感を示していたのだと思う。現代の「女性活躍」は女性が男性と同じように社会で働くことを重視する。もちろん、能力がある女性はどんどん社長にでも、総理大臣にでも、なっていくべきだ。ただ、それだけが女性の活躍とは限らないだろう。 ■25年ぶりに「ガンダム」のアニメ化で総監督に
――いったんは専業漫画家になったにもかかわらず、25年ぶりにご自身の漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のアニメ化にあたって総監督を務めました。 『オリジン』の原作には、熱いファンがついていた。だったら、原作を描いた人間が監督をすべきだと思った。 僕は、アニメの演出をするときはたいてい、シナリオを大きく変える。最初に描いた絵コンテもシナリオを大幅に変えたもので、シナリオライターを怒らせてしまったことがある。そのときは監督が間に入ってなんとか事を収めてくれたが、持論では、シナリオは変えざるをえないと思っている。
アニメづくりにおいて絵コンテは設計図のようなもので、それに沿って作業を進める。設計図に落とし込む時に、シナリオから変えざるをえない点はどうしても出てくる。 ただ、ここに原作がある場合にはちょっと話が変わってくる。原作を変えてさらに良くすることができるなら改変してもいいだろうけど、損なうケースのほうが多いのではないか。 だから僕は、アニメの仕事をしていた時代にも、ほかの人が手がけた原作のあるアニメはやらないと決めていた。下手に原作を傷つけたら申し訳ない。