受刑者の「不服申し立て」には高い壁…刑務官が“昇進”と“保身”ばかりに精を出す「塀の中」の知られざる現実
第1回【受刑者を「さん付け」で“刑務所”は本当に処遇改善できるのか 刑務官がストレスを募らせる理由「1年も経たずに辞めていく新米刑務官も結構います」】からの続き──。2006年に「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法)」が施行された。こうして明治時代から100年間も続いた監獄法はようやく廃止となった。(全2回の第2回)【藤原良/作家・ノンフィクションライター】 【写真を見る】ラグジュアリーホテルに変貌を遂げる予定の「美しすぎる刑務所」。荘厳な雰囲気すら漂う「旧奈良監獄」の貴重な内部写真 ***
刑事収容施設法の施行によって、大きく改善されたのは以下の3点だ。 【1】自由に手紙が出せるようになった 【2】苦情の申立てができるようになった 【3】誕生会のメシが美味くなった 第1回では、受刑者のさん付けで刑務所は変わったのか、刑務官による受刑者の虐待について取り上げた。この第2回では手紙の問題から始めたい。 取材先として4人の関係者に話を聞いた。1人目は2006年から22年までの約16年を刑務所で過ごし、刑事収容施設法による処遇改善を実際に経験したAさん。 2人目は過去の監獄法時代に14年間、刑務所に服役したBさん。3人目は改正前後に全国各地の刑務所に服役した経験を持つ、前科11犯のCさん、そして4人目として元刑務官にも取材を行った。 受刑者は刑事収容施設法の施行で、【1】手紙を自由に出せるようになったのだが、確かに一度は自由になったものの、その後は所長の方針もあって「改めて禁止」となった刑務所が多いという。 刑務所には「暴力団員同士の通信(手紙)は禁止」という規則がある。これは刑事収容施設法が施行されても変わらない規則だ。ところが手紙のやり取りが自由になると、服役中の暴力団員も手紙で連絡を取り合うことが激増してしまう。
機能しない苦情の申立て
手紙の量が急増し、刑務所側のチェックは全く追いつかなくなったことも大きい。本来なら暴力団員の手紙だけをより分ければいいのだが、その余裕がない。要するに人員不足が主たる原因なのだ。結局、「暴力団員同士の通信(手紙)は禁止」の規則を遵守するということを口実に、「改めて手紙は禁止」となってしまったそうだ。 処遇改善の目玉である【2】苦情の申立て制度についてAさんは「刑務所側からの説明が乏しいのでその利用方法が分からない受刑者が多数。そのため、それほど機能していない」と明かす。 法施行前の時代でも、受刑者が弁護士を介して刑務所内での処遇に対する不服申立ての裁判をすることはできた。だが、そのためには「塀の中」というハンデを背負いながらいくつもの複雑な手続きを行うことが求められ、多額の金銭負担も必要とあってあまり現実的ではなかった。 これを改善したのが新たな苦情申立て制度である。これは2本構成となっており、1本は個人が書面で行うもので、申立てを受けた矯正管区長や法務大臣は文章で回答する義務がある。もう1本は刑事施設視察委員会への投書によって委員会の調査介入を図るものである。 制度自体は、確かに受刑者にとって大きな助けとなる仕組みではある。だが、この制度の利用方法を受刑者が理解できていないのであればまさに本末転倒である。