受刑者の「不服申し立て」には高い壁…刑務官が“昇進”と“保身”ばかりに精を出す「塀の中」の知られざる現実
査定が全てという刑務官
「苦情申立て制度は、職員や刑務官に対してかなりのプレッシャーになってるのも事実ですよ。医務がよくなったのも苦情申立てを恐れてですから。自分たちがつつかれるのが嫌だからやってる感じですからかなりのプレッシャーなんでしょうね」(Cさん) 刑務所内では炊事や洗濯など、施設運営に関する労働は受刑者たちに負わされていることが多い。そうなると職員や刑務官たちの日々の業務は実に限られた範囲内でしかない。 要するに彼らは、仕事で自分の実績を示す場が少なく、ミスによるマイナス判定が勤務査定の重要ポイントとなってしまう。こうした査定基準だと苦情申立てに関わった職員や刑務官は、降格や減給等の処分対象になりやすいばかりでなく、将来的な昇進にも大きく影響してくる。 刑務官にとっては査定が全てであり、業務の内容などどうでもいい──こうした傾向の具体例として、Aさんは刑務所における自殺防止対策を挙げる。 「自殺者が出ると査定的にやっぱりよくないみたいで、そうなった時には、夜中のカメラの監視映像を、15分おきのものなんですけど、それを証拠提出しなきゃならないんですよ。ちゃんと夜中の巡回はしてたんですけど、やられました、みたいな感じで。それもあって自殺防止対策として夜中の巡回も1エリア毎に15分に1回しなきゃいけないんですけど、いくら刑務官でも眠くなるじゃないですか」
形骸化する自殺防止対策
真夜中の巡回なのだから、眠くなるのは当然だと言える。本来なら勤務体系を抜本的に見直すべきだが、刑務所では巡回を“形骸化”させることで乗り切っているという。 「そもそも、誰もまともな巡回なんてしていないんです。15分ごとに見廻りを行い、その都度、巡回済みだと記録するボタンを押すんです。ところが、そのボタンを押すためだけに走っているんです。もし15分後に次のボタンを押すのが間に合わなかったら、それだけで査定に響くし、減給処分になるかもしれないですから。あと見廻りのルートって決まっているんですけど、場所によっては距離が遠いから、やっぱり駆け足で通過しているんですよ。それで自殺防止対策になるんですかね? あいつらにとって受刑者の自殺防止なんてどうでもいいんですよ。処遇改善って言っても、結局は自分たちのことしか考えていない。色々矛盾してますよね」(Aさん) 査定に振り回されている結果、苦情申立てが刑務所の現場に与えている影響は、2つに大別できるという。 「2通りの職員や刑務官がいるんです。真面目な奴と、悪質な奴。どっちも塀の中で俺たちと一緒にいるから頭がおかしくなっていますけど、真面目な奴は申立て制度を単に恐れているだけです。悪質な奴は、申立制度で責任を取らされたくないから、隠蔽とかやりたい放題ですよ。だいたいどこの世界も同じじゃないですか。プレッシャーに負けるというか」(Cさん)