受刑者の「不服申し立て」には高い壁…刑務官が“昇進”と“保身”ばかりに精を出す「塀の中」の知られざる現実
刑務所“スイーツ”の質が向上
元刑務官も「苦情申立て制度がはじまって、かなりやり辛くなったみたいですよ」とその状況をハッキリと認めた。 改正の主役ともいえる苦情申立て制度は、ごく少数の受刑者には役立っているのかもしれない。だが、多くの受刑者たちは利用方法を理解できていない。また職員や刑務官たちはそのプレッシャーから逃れたい一心で隠蔽を繰り返し、調査も限定的でしかない。日々の業務も処遇改善による受刑者の人権擁護より、自分たちの職業上の保身を優先しているようでは、今後この部分については相当のテコ入れが必要になるかもしれない。 刑事収容施設法のおかげで、刑務所によっては【3】受刑者に振舞われる誕生日の甘味がよくなったそうだ。 とはいえ、AさんもBさんもCさんも「何もない刑務所にいると正直、それだけでありがたく思えてきます。でも、それで自分たちに対する処遇が改善されたと言われたら、『やっていることは幼稚園レベルじゃないですか?』と聞きたくなりますよ」と口を揃えた。 明治時代に定められた監獄法も100年も経てば老廃するのは当然であり、それを廃止したからといって受刑者の処遇改善に直結するわけでもない。新たに刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律が施行されて、今後もその見直し改正が施されるようだが、日本における受刑者への処遇改善への取り組みはまだ始まったばかりである。
全く出しきれていない「膿」
そして、それを体験した受刑者たちは、次のように口を揃える。 「刑務所での本当の問題は、受刑者の方ではなくて所長や職員や刑務官の方にあります。刑務所を管理している側がどうするかしかないんです。暴行、いたぶり、イジメ、殺人、受刑者を自殺に追い込む、偽証、隠蔽、責任の擦り付け合い、保身、そのすべては受刑者ではなくて刑務所側がやってることですから」 現在の刑務所側に根深く残る管理側の特権意識。もしそれを「膿」と呼ぶならば、その膿を出し切るにはまだ長い時間が掛かりそうだ。 第1回【受刑者を「さん付け」で“刑務所”は本当に処遇改善できるのか 刑務官がストレスを募らせる理由「1年も経たずに辞めていく新米刑務官も結構います」】では、「さん付け」に変えても刑務所で横行する体罰、刑務官同士のパワハラなど、“塀の中”の地獄とも言える日々について詳細に報じている──。 藤原良(ふじわら・りょう) 作家・ノンフィクションライター。週刊誌や月刊誌等で、マンガ原作やアウトロー記事を多数執筆。万物斉同の精神で取材や執筆にあたり、主にアウトロー分野のライターとして定評がある。著書に『山口組対山口組』、『M資金 欲望の地下資産』、『山口組東京進出第一号 「西」からひとりで来た男』(以上、太田出版)など。 デイリー新潮編集部
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