顧客体験に直結するベクトル検索を独自開発--間接資材ECサイトのモノタロウ
今回のベクトル検索の採用により、例えば「工場の床に白い線を引く」といった自然文でも検索ができ、商品名に「工場」「床」「白い線」などの文字が含まれていなくても、想定した商品が表示できるようになったという。 また、「居酒屋で刺身を船盛りする容器」で検索した場合には、「居酒屋」にポイントを置いた検索ができ、居酒屋での利用を想定したデザインの船盛り皿を抽出することができる。「居酒屋向け」と商品名に含まれていなくても、目的に合わせた商品を短時間で検索できるようになった。 ベクトル検索と全文検索システムも併用し、ベクトル検索ワードと商品情報のテキスト情報が一致しているかを調べるほか、販売実績データや購買行動データから、購入機会が多い商品を表示することもできる。「検索精度の向上とともに、検索したものは1秒以下の短い応答時間で表示することにこだわった。操作時の利便性を失わないように工夫した」(普川氏)という。 加えて、「ねこ」と検索した場合、建設現場では一輪車を指す言葉になる。そこで、利用者の購買履歴などから建設関連商品を購入している場合には、一輪車が表示されるようにカスタマイズしている。さらに、Null Searchが約70%減少しており、販売機会のロスを防ぐことができたとしている。 普川氏は、「インターネット購買で重要な点は、お客さまが探している商品を短時間で見つけることができる検索性になる。実際モノタロウにおけるカートイン全体の約半分が検索によるもので、商品検索機能の強化はお客さまの利便性向上に向けた重要な取り組み。今後もデータ解析によって独自の高い精度を持つ検索システムを実現していく」と述べた。
同社では、2019年頃からベクトル検索に注目していたが、実用レベルにおいて精度の高い検索結果を安定的に表示できるめどが立ったのは2023年に入ってからだという。同社のデータサイエンティストが中心になって開発を進め、生成AIなどの仕組みを参考にしながら改善した。Google Cloudの「Vertex AI」を活用し、データベースには「BigQuery」を使用している。 同社は約30人のデータサイエンティストを擁しているほか、2024年10月にはデータサイエンス部門を新設。データ活用をさらに加速する体制を整えたところだ。 普川氏は、「モノタロウの実績を基に大企業向け購買管理システムへ展開するほか、テキストからベクトルへの変換モデルのさらなる精度の改善、画像検索や推薦システムなどのテキスト検索以外にも、ベクトル検索システムの応用を拡大していく」と語った。 同社は2000年10月に創業し、大阪・梅田に本社を置く。正社員は1432人、アルバイトや派遣社員が2041人。国内3カ所に物流センターを持ち、海外子会社として韓国、インドネシア、インドに拠点を持つ。「資材調達ネットワークを変革する」を企業理念に掲げている。ユーザー数は988万人以上、2023年度の売上高は約2543億円となっている。自ら間接資材の在庫を持ってオンラインで販売。コールセンターや商品調達、物流、マーケティング、データサイエンス、ITなど主要な業務システムを自社開発し、自社で運用しているのが特徴だ。自らを「フルスタックECカンパニー」と位置付けている。 社名には、間接資材を指す「MRO(Maintenance、Repair、Operation)」の文字を盛り込み、事業者に必要な物が何でもそろうサービスを提供する。間接資材流通における不透明さや非効率といった問題を、「桃太郎の鬼退治にかけて解決する」という意味も持たせている。 「モノタロウが提供している価値は、時間資源の提供。資材を調達する時間や、それを待つ時間を減らし、お客さまが本業に時間を割けるようにしている」(普川氏)とし、商品点数を増やすことで検索ワード数を拡大し、新規顧客の獲得を増加。これによって、ロングテール商品の購入頻度を向上させることで、さらに商品の在庫化を進展し、納期短縮や利便性向上を実現している。「平日午後5時までに注文を受けると翌日配達される。取り扱い点数拡大が顧客数の拡大につながり、それが在庫点数拡大につながり、売上拡大と利益拡大につながるという事業成長サイクルを確立している」(普川氏)という。 また普川氏は、「事業成長に伴い、他社が利用できない1次データがさらに蓄積されることになり、データとアルゴリズムによって、競争優位性が高めることができる」とも述べた。 同社では、保有している多くの商品情報やユーザーの行動情報といった独自の1次情報を活用して独自のアルゴリズムを生成しており、質の高い膨大なデータからアルゴリズムによる分析を通じて知見を抽出している。普川氏は、同社が持つドメイン知識を組み合わせて、より良いサービスへと進化させ、顧客体験や業務最適化といったビジネス価値を創出していることを強調した。