高島屋 村田善郎社長 百貨店から進化へ【トップに聞く 2024】
「百貨店+専門店」のポテンシャルは高い
―アパレルの売り場で目立った傾向は? セールではなくプロパーで買われるお客様が増えていますね。弊社ではコロナ禍からは取引先様と連携して“売り切る”ことに注力しています。コロナの間に生産者も在庫が余ってしまってすごく疲弊していたので、我々も一緒になってモノを作って「多少価格が高くても」買っていただけるような商品づくりや、「思わず足を運びたくなる」売場づくりに取り組んでいます。婦人服で13社、紳士服で32社、子ども服6社、計51社との連携を強化し、徐々に取り組みを拡大していますが、昨年ごろから売り切ることができるようになってきました。利幅も増えますし、我々だけではなく売り手にも環境にも“三方良し”ですから。 ―物価高の影響でファッションの消費が落ちているという見方もあるのでは。 無駄な消費はしないという消費者層と、“いいもの”にはお金を出したいという消費者層でいわゆる二極化が進んでるのは事実で、コロナを経てその傾向がより強くなりました。影響がないというと嘘になりますけど、百貨店の場合は割と限定的かなと思っています。これはアパレルだけではなく食品も同様です。富裕層が中心であったラグジュアリーも若いお客様がかなり増えてきているんですよ。 ―いわゆるZ世代の来店が増えているんですね。 そうですね。店舗によりますが、横浜店や新宿店では非常に増えています。Z世代は生まれた時からスマホ世代で、フェイクニュースや偽物に溢れているという中で「百貨店に行けば間違いない」という思いがあるようで、コスメなどが入り口となっているようです。商品に対する興味も深く、どんな職人がアイテムを作っているのかといったストーリーや背景まで知ろうとしています。 ―率直に申し上げると、百貨店は顧客が高齢化しているイメージがありました。 逆にコロナを経て、百貨店の良さがクローズアップされているように感じていますね。店頭で店員と話をして、商品の背景にあるストーリーを聞いて納得してから買うという“リアルの温もり”が百貨店にはあります。 ―村田社長が考える「百貨店ならではの強さ」とは? 日本の百貨店には「3つの良さ」があるとよく言っています。1つ目は「おもてなし」。2つ目は「ワンストップ」。そして3つ目は「アートや文化を消費の中で体験できる」というものです。これらは、実は昔からある要素なんですよ。ただ、昔とは違って、店頭で買えないものはネットで買えたり、百貨店でないものは専門店で買えるようになりました。また、DXの発展で文化の発信をデジタルでも行える。そういった中で、いかに百貨店の良さを高めていくかが我々のテーマです。 そこで、百貨店と専門店の両方の良さを出すために、弊社は百貨店と専門店が共存する業態を展開しています。玉川高島屋S・Cや日本橋高島屋 S.C.などがそれにあたります。ネクタイを買いたくなったら、百貨店のネクタイ売り場に行けば様々なメーカーやブランドの商品を一度で見ることができますし、流行りをいち早く入れたい時は、専門店ゾーンのショップを入れ替えることができます。そういった百貨店と専門店それぞれの良さをSC業態で突き詰めていくことが、我々の百貨店を核とする企業グループの“生き残り策”でもあります。 ―“生き残り策”のお話しがありましたが、今、地方の百貨店閉店が相次ぐなど、百貨店業界全体では厳しい状況に立たされています。日本百貨店協会会長の視点で、 百貨店がこの先、生き残っていくために必要なことはなんでしょう。 そうですね、それぞれ模索していると思います。昔は百貨店というと一律の方向に向かっていましたが、コロナを経てそれぞれが少しずつ方向性を変えています。富裕層や専門店に特化したりと、三者三様ありますよね。 我々で言えば、グループのノウハウを結集してやっていくという「まちづくり」が大きな政策の一つになっていて、専門店との融合もその一環です。たとえば、昨年10月にオープンした京都高島屋S.C.は外国人観光客含め、様々な目的で来街する方が多い地域に店舗を構えていますから、アニメなどのサブカルやエンターテインメント、現代アートなどを積極的に融合して化学変化を起こすことで、より良い形で館の魅力を高めようとしています。それが我々の戦略ですね。 ―地方の百貨店はどうなっていくのでしょうか。