「警察を呼ばれちゃう」来日8年目のインドネシア人が後輩に伝えた日本の「騒音問題」の悲しい現実
「セメントじゃない!」
何がインドネシアと違うのか、後日、デデさんに詳しく聞いてみました。 「あれは日本で働き始めて、すぐのことでした」。デデさんは初めて暮らす日本の木造アパートで、「隣人の話す声が聞こえてきて、びっくりした」と振り返ります。 壁を見ると、どうも、インドネシアと造りが違うことに気づきました。インドネシアの住居の壁は、レンガを積み上げて、その表面を、セメントに砂などを混ぜたもので塗り固めています。それに比べると、日本の木造の壁は「薄い」のです。 それでも、隣近所から聞こえる音は、デデさんにとっては気になるものではありませんでした。 インドネシアでは、家の前の路地で、昼夜問わず「タフタフ~(豆腐豆腐)!」と叫ぶ豆腐売りや、鍋を打ち鳴らす屋台が行き交います。井戸端会議をするご近所さんの笑い声が響いています。 「故郷では、家の中にいてもいつも誰かの声が聞こえてきて、他人の生活を感じるのが当たり前でしたから」
「薄い壁」よりも驚いた「静寂」
そんな国から来たからこそ、「薄い壁」よりも、デデさんをひどく悩ませたのは「孤独感」でした。 都内の住宅街に暮らしているのに、「少し暗くなると、何の声も音もしないでしょ。道も、人がほとんど通らない。とてもとても静か」。 仕事から帰ってきて、静まりかえるアパートで妻とふたりきり。 寂しさが募る中、救いになったのが同郷の先輩や友達と集まることでした。「インドネシアでは何も行事がなくても、人と集まるのが文化。忙しくても、人づきあいが最優先で、『ワジブ・クンプル(義務として集まれ)』って言われてきました」 それぞれの家に順番に集まり、デデさん宅の番。その日は10人ほどが集まり、一緒にご飯を食べ、近況報告や仕事の相談をしながら、楽しい時間を過ごしていました。 突然、チャイムが響きます。 来たのは警察官でした。「苦情が来ています」。事情を聞かれ、パスポートを調べられ、不安な思いをしたデデさん。「つい声が大きくなってしまったんですよね」と、当時を反省します。 それから、友人たちと集まる機会は減っていき、今ではほとんどなくなったそうです。 「みんなもそれぞれ忙しいですから。集まるのも面倒になってしまって」。そう話すデデさんを見て、「日本」になじむ中で「人づきあいが最優先」と語っていた「インドネシア文化」はもう薄れてしまったような気がして、筆者は寂しさを感じました。