2017年国際展望 拡散する「トランプ現象」ポピュリズムが不満のみ込む
議会制民主主義の“鬼っ子”
2017年にはヨーロッパのいくつかの国で選挙が行われますが、特に重要なものとして4月のフランス大統領選挙があげられます。 フランスは極右政党の先駆けである「国民戦線」が生まれた国。既存政党が移民の受け入れで一致していた1980年代に、国民戦線は「100万人の失業者、100万人の多すぎる移民」というスローガンで移民排斥を主張し、未熟練労働者、小規模店主、農民の間に支持を広げていきました。その台頭は、既存政党が気づかなかった「移民への不満」を政治の場に持ち込むことで実現したといえます。 その現在の代表マリーヌ・ルペン氏は、今年の大統領選挙に立候補する予定です。2016年11月の世論調査での支持率は25~28パーセントでしたが、ルペン氏はBBCのインタビューに答えて、トランプ氏の勝利に関して「不変のものはない」と述べ、自らの勝利にも自信を示しました。 フランスに代表されるヨーロッパでのポピュリズムの広がりは、ヨーロッパ外も影響を免れません。ポピュリズムには「他者」との共存を避ける傾向が顕著です。これは国内的には少数者を排除する動きに結びつきやすいですが、トランプ氏の保護貿易や同盟国に対する防衛協力の削減の主張にあるように、国際的には外国との関わりを制限することにつながります。ヨーロッパでポピュリスト政権が誕生すれば、他国との協力による長期的な利益を軽視する風潮は、世界全体でますます強くなるとみられます。 その一方で、ポピュリズムの台頭は、議会制民主主義にとって、その真価を問われるものでもあります。先述のように、政党や議員が必ずしも国民のニーズに応えていないという不満が広範に広がる状況が、ポピュリズムの土壌になります。ポピュリストが持ち出してきた政治的テーマを既存政党や議員が吸収し、これにより建設的な対案を提示できれば、そして有権者が危機感だけに振り回されなければ、ポピュリズムは勢力を衰えさせることになります。 危機感を剥き出しにするポピュリズムの台頭は個人の権利を制限するなどの弊害を生みがちで、その意味において危険ですが、他方で議会制民主主義にとっては、欠陥の修復を促し、よりよくするための試練を与える点に意義があるということもできます。議会制民主主義の鬼っ子であると同時に、その能力を試す試金石ともいえるでしょう。
----------------------------------- ■六辻彰二(むつじ・しょうじ) 国際政治学者。博士(国際関係)。アフリカをメインフィールドに、幅広く国際政治を分析。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、東京女子大学などで教鞭をとる。著書に『世界の独裁者』(幻冬社)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『対立からわかる! 最新世界情勢』(成美堂出版)。その他、論文多数。Yahoo! ニュース個人オーサー。個人ウェブサイト