2017年国際展望 拡散する「トランプ現象」ポピュリズムが不満のみ込む
トランプ氏はポピュリストか?
これらの特徴は、トランプ現象にも概ね当てはまるといえます。 トランプ氏は米国が内外憂慮に直面し、危機感が充満するなかで登場してきました。安全保障面では、対テロ戦争の長期化だけでなく、中露の台頭による軍事的優位の揺らぎがあります。経済面では、2008年のリーマンショック後の危機から抜け出したかにみえますが、格差は相変わらず大きいままです。さらに、さまざまな偏見や差別が蔓延する一方、それを「表に出してはいけない」という社会的な規範が行き渡ることで、息苦しさも増しています。 この状況のなか、トランプ氏は「政界のアウトサイダー」として、既存エリートを批判して支持を広げました。「グローバル化を推し進めた連中が、米国から中間層を奪い、アジアに中間層をもたらした」というトランプ氏の主張は、1990年代以来の米国の政治・経済エリート全体を非難するものだったといえます。 トランプ氏には、過去への回帰願望も鮮明です。「米国をもう一度偉大な国にする」という主張や、非キリスト教徒や性的少数者への敵意は、開拓時代にまでさかのぼる伝統的な米国社会のイメージを流布し、そこへの回帰を呼びかけるものといえます。 一方で、その方針には様々なイデオロギーが交錯しており、オバマ政権のもとで導入された公的健康保険(オバマケア)を批判するなど、共和党らしく「小さな政府」路線を叫ぶかと思えば、TPPなど自由貿易体制には批判的で、大規模な公共事業による雇用創出など「大きな政府」支持者としての顔ももちます。このカメレオン性も、トランプ氏のポピュリストとしての特徴を示しています。
ヨーロッパ諸国でも鮮明に
翻って世界を眺めると、トランプ現象が発生した米国とよく似たポピュリズムが台頭する土壌は、他の国なかでもヨーロッパ諸国で鮮明になっているといえます。 ギリシャ債務危機とその後の経済停滞に端を発して、フランスなどでのテロの頻発、クリミア危機、シリア難民の流入など、2008年以降のヨーロッパとその周辺では、危機的な状況が慢性化しています。それだけでなく、中露をはじめとする新興国の台頭により、欧米諸国主導の国際秩序が揺らいできたことは、もはや否定のしようがありません。これまで米国とともに世界をけん引してきただけに、米国以上に停滞が目立つヨーロッパには、とりわけ危機感が蔓延しています。 その中で、状況に対応できない政治家や、現状の世界で利益を得ている大企業経営者、様々な規制を敷いてくる国家官僚やEU官僚などの既存エリートへの批判だけでなく、かつての社会をイメージ化して、そこへの回帰を目指す論調は、ヨーロッパ各地で高まっています。2014年のスコットランド独立をめぐる住民投票や、従来「アウトサイダー」だった極右政党の台頭、さらに2016年6月の英国での国民投票でEU離脱が決定したことは、この流れの中で増幅した「普通の人々」の危機感の発露といえます。 しかし、「危機感」という本能的なものに基づくだけに、これらの勢力も論理的な一貫性に乏しく、そこにはやはりポピュリストとしてのカメレオン性を見出すことができます。例えば、英国のEU離脱派の場合、投票前には「EU離脱で英国経済は活性化する」と強調していましたが、国民投票の後にはEUに「特別な関係」を求めています。ここには、「難民受け入れなどEUメンバーであるコストは負担しないが、巨大市場EUから恩恵は受けたい」というご都合主義が顕著です。