太陽系外惑星「K2-18b」の “生命の観測的証拠” は(今のところ)幻かもしれない
■ジメチルスルフィドの存在は(今のところは)幻
Tsai氏などの研究チームは、K2-18bのような大気組成を持つ天体で、ウェッブ宇宙望遠鏡が観測可能なほどの高濃度なジメチルスルフィドが生じ得るのかをシミュレーションしました。 ジメチルスルフィドは生命活動もしくは自然のプロセスによって発生し、恒星からの紫外線によって分解されます。ジメチルスルフィドの濃度がウェッブ宇宙望遠鏡で観測できるほどのレベルになるのかどうかを最終的に決定するのは、生じる量から分解する量を差し引いた値です。 今回の研究では、生物が全く存在しない場合から、地球よりも豊富な生物がいる場合までの様々な条件を設定し、ジメチルスルフィド以外の化合物も含めた様々な分子の生成量を推定しました。他の分子の生成が想定されたのは、いくつかの硫黄化合物が雲の生成に関与していると考えられているためです。雲は日光を遮断し、紫外線によってジメチルスルフィドが分解されるのを防ぎます。 シミュレーションの結果、ジメチルスルフィドの濃度がウェッブ宇宙望遠鏡の性能でK2-18bの大気中から検出できるほど高くなるには、地球の20倍以上の生物の存在が必要であることが分かりました。ただし、これほど生命豊かな環境を想定しても、ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データからジメチルスルフィドの存在を証明するのは困難であることに変わりはないことも分かりました。この結果からすると、K2-18bが生命あふれる惑星であると考えるよりも、ジメチルスルフィドを検出したという結果が幻であると考える方が妥当でしょう。 ただし、2024年後半にはウェッブ宇宙望遠鏡によるK2-18bの追加観測が予定されており、今回の研究が示すこの少し残念な結果は早めに覆るかもしれません。現在の観測結果だけではジメチルスルフィドの存在をはっきり確定させることはできませんが、この追加観測によって白黒をよりはっきりさせられるデータが得られるかもしれません。 Source Shang-Min Tsai, et al. “Biogenic Sulfur Gases as Biosignatures on Temperate Sub-Neptune Waterworlds”. (The Astrophysical Journal Letters) Jules Bernstein. “Webb telescope probably didn’t find life on an exoplanet ― yet”. (University of California, Riverside)
彩恵りり / sorae編集部