ネタツイートから生まれた小説が書籍化 『横浜駅SF』著者・柞刈湯葉さん
「横浜駅が自己増殖して日本列島を覆い尽くす」-。そんな奇想天外な設定に、「あらすじだけで面白い」と話題になり、「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」大賞に選ばれた『横浜駅SF』。ツイッターに何気なく投稿した「横浜駅は生命体である」というネタツイートを発端に連投小説化し、長編小説として書き直すに至ったという異色の作品だ。 著者は小説だけでなくゲーム「人を馬鹿にしたブロック崩し」、上司にバレずにツイッターができる不良社員支援ツール「BossKitter」など、クスッと笑ってしまうようなウェブアプリを発表している生物学研究者の柞刈湯葉(いすかり・ゆば)さん。書籍化を前に、小説を書いたきっかけやネット小説ならではの読者からのダイレクトな反応について話を聞いた。
実話を書く理由がなければフィクションを書く
――小説はいつ頃から書かれていますか。 小学生でよく作文や日記の宿題が出ていたのですが、僕はそういうのに作り話を書いていました。それが最初ですね。別にふざけていた訳じゃなくて、作文が事実を書くものだと知らなかったんです。「ぼくの家のとなりに三かいだての家があって~」という話を書いて親に「そんな家はないよ」と指摘されてはじめて知りました。 で、「学校の作文に作り話を書いてはいけない」と学んだので、小遣いで原稿用紙を買ってきて小説を書くことにしました。冒険小説とかですね。クラスの友達に見せたらまあまあ好評でした。登場人物に友達の名前を使っていたので「次はおれも出せ」みたいなことを言ってくる人はいましたね。 mixiが流行ってた頃も日記としてフィクションを書いていたのですが、実話だと勘違いする友達が多くてちょっと困りました。世の人は特に断りがなければ実話だと思うのですが、僕の場合は特に実話を書く理由がなければフィクションを書くんです。 こういうのは全部内輪向けのものですが、「不特定多数への公開を前提とした小説を書こう」とはじめて思ったのは、数年前に開始された星新一賞がきっかけですね。1万字以内で賞金100万円と聞いて「コスパいいから応募してみるか」と思って何作か出しました。全部落ちましたが。 ――ツイッターで即興で発表するというやり方は、これまでもされたことはありますか? 「作品を発表しよう」と気合を入れてTwitterに投稿してるわけではないです。「思ったことをだらだらツイートしたら小説みたいな体裁になっていた」という感じですね。 横浜駅SFに関しても、何ツイートか書いたところで「yubaisさんの書いているSF小説が面白い!」と周りが騒ぎはじめて「そうか、言われてみるとこれはSF小説だな」と思ったんです。それで書き終わってから「じゃ、ちゃんと体裁を整えるか」という事で長編小説に書きなおした感じですね。 最終的に長編になったのは横浜駅だけですが、他にも何作か「後から見直したら小説っぽいツイート」があるので、よくそういうのを見返して、きちんと体裁を整えて短編小説に仕上げたりしています。