現役生と浪人生、ワクチン投与の優先順位は? 実際に行われた「役所による選別」という大問題
クローン人間はNG? 私の命、売れますか? あなたは飼い犬より自由? 価値観が移り変わる激動の時代だからこそ、いま、私たちの「当たり前」を根本から問い直すことが求められています。 【写真】現役生と浪人生、ワクチン投与の優先順位は? 実際に行われた「役所の選別」 法哲学者・住吉雅美さんが、常識を揺さぶる「答えのない問い」について、ユーモアを交えながら考えます。 ※本記事は住吉雅美『あぶない法哲学』(講談社現代新書)から抜粋・編集したものです。
人々を選別しなければならない功利主義
私は2018年の夏、札幌で深夜にとんでもない大地震に遭遇した。北海道胆振東部地震である。その直後からブラックアウト、北海道全域にわたる大停電が始まり、きわめて長時間の停電に困惑した。 私の居場所では通電までに39時間を要した。しかし、地域によってはそれよりもっと早く通電したところがあった。役所、放送局、病院、警察、大学などがあるエリアは比較的早く回復した。 一挙に全面回復できない場合には、可及的速やかに電気を必要とする施設、つまり病院や放送局などが優先されざるを得ないことは理解できる。だがその一方で、スーパーや飲食店は電力の回復が遅れ、結果的に多くの生鮮食品がダメになってしまい、また乳業も大ダメージを受けた。 行政が限定された財、稀少な財を人々に分配する時には、どの層に、なにゆえに優先的に与えるかを即座に判断しなければならない。その判断においても功利主義が用いられるのだが、最大多数の最大幸福のためにどう分配すべきかを考えることはなかなか困難である。 なぜなら、人々にとっての「幸福とは何か」という問い自体が、簡単に答えの出る問題ではないからだ。 そこで、むしろ逆に、最小不幸で済ませよう、という発想になる。社会のどの層の人々に犠牲を被ってもらった方がましな結果になるか、より損失が少なく、また不満の声が少なくなるか、ということを考慮するようになる。 こうなると功利主義は、不利益を被る人々を選び出す理論と化す。