ゼネコン佐藤工業が挑む「インフラツーリズム」、事業化に向けて研究会を発足、その背景と勝算を責任者に聞いてきた
社員自ら資格取得、ゼネコンの本気
岩橋氏とともにインフラツーリズム事業化研究会で事業化を目指しているのは、マネージャーの今泉貴道氏と、ディレクターの米田咲氏だ。岩橋氏と米田氏は昨年まで土木事業部と兼務しており、今年から研究会の専任となった。今泉氏は現在も社長室 広報部 課長と兼務している。 今泉氏と米田氏はゼロから旅行業界について勉強し、国内旅行業務取扱管理者の資格も取得。サンプルツアーを企画し、旅行会社への持ち込みを始めている。 「サンプルツアーを実際に催行し、お客様のアンケートなどをもとに、さらにブラッシュアップしていく予定です。しっかり収益を上げるものにして研究会を事業部にし、将来的には子会社化できればと考えています」。
ゼネコンならではの説得力が強み
ゼネコンである佐藤工業がインフラツーリズムを手がける上での強みは、「本職ならではの説得力」だ。一般公開が延期されているものの、「黒部宇奈月キャニオンルート」のガイディングでも、黒部ダムの工事にも関わった同社の力が発揮されている。 「私も、黒部ダムの工事に関する専門的な知識や当時の詳しい情報などを教えてほしいと頼まれ、ガイドの方たちにレクチャーしたことがあります。例えば、温度の高い岩盤を掘り進める際、100度を超えると自然発火してしまうダイナマイトをどうやって扱うことにしたのかなど、私たち土木の現場を知る技術屋ならではのお話をお伝えしました」。 インフラツーリズムを企画する上での強みは他にもある。インフラ工事の現場はさまざまな危険が想定されるからこそ、安全管理が最重要事項となる。厳しい安全管理に携わった経験があるからこそ、安全にツアーを催行するためのポイントをしっかりと押さえられるのだ。こうしたゼネコンだからこその強みは、インフラツアーの舞台となるインフラ施設の持ち主と交渉する上でも発揮されるだろう。
インフラツアーを地域振興にもつなげたい
「インフラの魅力は現場に行くからこそ伝わるもの。インフラとともにこの仕事の魅力を伝えることで、土木建築業界にもいい影響を与えることができれば嬉しいですね」と岩橋氏は語る。 「インフラだけでなく、その周辺の施設や観光資源と併せてツアーを組むことで地域振興、まちづくりにもつながります。まずは日帰りのバスツアーからサンプルツアーを始める予定です。そして、今後は旅行業界と協力してインフラツーリズムを進めることができたらと思っています。また、DMOなど、地域の皆様からの情報提供やお問い合わせも歓迎です」。 人口減少と少子高齢化が進む日本において、高度経済成長期に整備されたインフラの維持管理は今後さらに大きな課題となるはず。こうした社会情勢を踏まえながら、知的好奇心を刺激し、「専門家のガイドで個人では入れない場所」を最大限に楽しめるツアーで集客できるか。研究会の今後に注目したい。 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫 記事:フリーライター 吉田渓
トラベルボイス編集部