「リュウグウ」サンプルの生物汚染発見が、逆説的にJAXAでの汚染排除の適切さを証明
様々な注意を喚起する出来事
今回のリュウグウサンプルにおける汚染の発見は、生物は地球のどこにでもいるという状況を再確認させ、より一層生物汚染に注意を払うべきであることを注意喚起するものです。リュウグウのサンプルのように有機物に富む岩石は、細菌にとってはビュッフェも同然であり、増殖しやすいために余計に注意を払わないといけません。そして逆説的ながら、今回の汚染の発見により、JAXAでの汚染対策は極めて高い水準であることが証明された形となります。 付着からわずかな時間で細菌が増殖したことは、月や火星などの環境に地球の生物が持ち込まれた際に、急激に増殖する恐れがあることを示唆しています。月や火星の表面は温度や大気など、有機物が豊富な小惑星よりも生物にとって居心地の良い環境が整っている場合があるためです。JAXAでサンプルを取り扱った時の状況は、今後の宇宙探査機の汚染対策において参考や基準となる可能性もあります。 また、有名な「アラン・ヒルズ84001」を始めとして、隕石から生物細胞と思えるような化石化(※3)した構造を発見したという主張が稀に出てくることもあります。化石化とはすなわち、地球に落下する以前に付着していたことを主張しています。今回発見された細胞の構造や元素分析の結果は、それらの “化石” ととても類似しています。このことから、今後宇宙のサンプルで細胞のような構造が見つかったとしても、真に地球外生物の発見とするには、厳格に汚染が排除されていることを証明しなければいけないことを示しています。 ※3…ここで言う化石化とは、細胞のような構造に、生体組織に必須である窒素が欠けていることで定義されます。今回の研究では窒素を検出するのに十分な分析装置を使用したにも関わらず、窒素を見つけることはできませんでした。また、実験条件下では24時間以内に “化石化” することが示されています。 そして、この話題を報じた記事の一部には、汚染のタイミングを「JAXAでの取り扱い中に起こった」と誤って説明したり、そのような誤認をしかねない内容もありました。今回の論文やほとんどの記事では、汚染のタイミングはイギリスに輸送後の開封時であるときちんと書かれていましたが、一部の誤った説明による間違った方向へ話題が広がった結果を受けてなのか、JAXAのISAS(宇宙科学研究所)が『リュウグウ粒子から微生物汚染が見つかったとする論文について』と題する説明を行うまでに至りました。一見するとセンセーショナルと思える話題は、真偽について注意しなければならないと同時に、筆者を含めた研究内容を報じるメディア側も、伝える内容に誤りがないことを再確認すべきであることを提起する話題であると考えます。