『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』先行レビュー。若き日のハリソン・フォードになりきれる。謎解きと潜入に重きを置いたゲームデザインが魅力
ベセスダ・ソフトワークスよりXbox Series X|S、PC向けに2024年12月9日発売予定の『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』。 【記事の画像(21枚)を見る】 ※プレイステーション5版は2025年春発売予定 映画『インディ・ジョーンズ』シリーズを原作に、伝説の考古学者の新たな冒険を描く完全新作のアクションアドベンチャーであり、トッド・ハワード氏が製作総指揮を手掛けることでも話題のタイトルだ。 今回はそんな『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』を先行プレイ。そのインプレッションをお届けする。 ファンを大いに喜ばせる要素は満載だが操作性に難あり 鞭の音、土埃の匂い、古代遺跡の神秘……、そしてハリソン・フォードの眼光。伝説の考古学者、インディ・ジョーンズが最新ゲームの世界に帰ってきた! 『Wolfenstein』(ウルフェンシュタイン)シリーズを手掛けてきたMachineGamesが満を持して贈る『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』は、映画シリーズへの深い愛情とリスペクトが凝縮された正統派の冒険活劇だ。 緻密に再現された世界観、映画さながらの演出、そしてファンをニヤリとさせる小ネタの数々……。本作はインディ・ジョーンズという冒険の伝説を、新たな世代へとつなぐ作品と言えるだろう。しかし、王道を行くがゆえのジレンマ、そして操作性という名の落とし穴も存在する。 開発チームから伝わる映画へのラブレター 本作の最大の魅力は、何と言っても映画シリーズへの惜しみない愛情と敬意だ。『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』と『最後の聖戦』の間の物語を描く本作は、ファンにとってまさに夢の続きと言えるだろう。 プレイヤーは、マーシャル大学の教授、ヘンリー・ジョーンズ・ジュニア博士として物語を始める。映画では断片的にしか描かれなかった彼の日常、研究室での思索、映画に登場したキャラクターたちとのその後。ファンにとってはそれだけで涎ものの体験だ。 開発陣の映画シリーズへの深い愛情と理解は、ゲームの隅々にまで浸透している。映画でおなじみのテーマ曲『レイダース・マーチ』が響き渡る瞬間、映画を観たことがないプレイヤーでも聞き覚えのあるメロディーには興奮を覚えるに違いない。 細部まで再現された衣装や小道具、そして時折耳にするウィルヘルムの叫び声は単なるファンサービスではなく、インディ・ジョーンズの世界観を構築するうえで不可欠な要素であり、プレイヤーをインディ・ジョーンズになりきらせる魔法なのだ。 映像美と若かりしハリソン・フォードの再来 本作のビジュアルはまさに圧巻だ。まるでCGドラマを見ているかのような、高品質なグラフィックで描かれる世界は、プレイヤーをインディ・ジョーンズの世界へと瞬時に引き込む。 圧倒的な量のムービーシーンも、本作の大きな魅力。映画さながらのユーモア溢れる会話や、ハリソン・フォードの演技を彷彿とさせるキャラクターの動きは、ファンにとって至福のひとときとなるだろう。 とくにCGモデリングのクオリティーの高さは特筆に値する。若いころのハリソン・フォードの魅力を余すことなく捉えており、その存在感はまさに本人と見紛うほど。英語版ではハリソン・フォードに似た声質の声優を起用し、没入感をさらに高めている。 日本語版の演技も非常に自然で違和感なく物語に没頭できる。 ただ、PC版でプレイする際、このビジュアルを再現するために求められるPCスペックはかなり高いのでしっかり確認しよう。筆者はCPUがRyzen 5 5600X、GPUはRTX3080だがフルHDの推奨スペックを満たしていないという現実を突きつけられてしまった。 インディ・ジョーンズになる一人称視点の魔法 本作は基本的に一人称視点を採用している。プレイヤーはインディの目を通して世界を見渡し、彼の思考や感情と完全にシンクロする。とくに、収集物にはほぼすべてセリフが用意されているので、自分がインディ・ジョーンズになったかのような錯覚すら覚えるほどの没入感を堪能できる。 UI(ユーザーインターフェース)は最小限に抑えられ、ゲーム画面はインディの視界とほぼ一体化している。マップは彼が実際に手に持って確認し、ファストトラベルも道標を探し出すことで初めて利用可能になる。これらの制約は一見不便に感じるかもしれないが、インディ・ジョーンズの世界への没入感を高めるための、緻密に計算された仕掛けであることに気づくはずだ。 謎解き要素は自力解決も答え覗き見もあり! 本作はアクションよりも謎解きと潜入に重きを置いたゲームデザインを採用している。インディ・ジョーンズは考古学者であって、決して一騎当千のスーパーヒーローではないのだ。 敵との戦闘は殴り合いがメインだが、この部分は正直言って特筆すべき点はない、シンプルなもの。戦闘パートは二の次であって、腕力よりも知力の謎解きパートがメインだ。 本作は世界中のさまざまなエリアを舞台にしているのだが、どのエリアでも探索と謎解きパートはふんだんに用意されている。とくに驚かされたのが、第2エリアの“バチカン市国”だ。 筆者は2024年10月に開催された先行プレイ体験イベントでこのエリアをすでにプレイしていたのだが、当時用意されていたデモでは1時間ほどで探索が完了したので、狭いエリアなのだと思っていた。しかし、実際はデモ版とは比較にならないほど、ストーリーだけでなくサイドクエストや収集アイテムが豊富だった。そろそろつぎのロケーションになる“ガザ”に移動かなと思ったら、まだまだ探索が続くので、これにはビックリ。 謎解きは頭を悩ませる難問から比較的簡単なものまで、バリエーション豊かに用意されている。そして、どんな謎解きであっても解決した瞬間に得られる気持ちは、このうえなく爽快だ。 もし謎解きが苦手でも大丈夫。難易度設定で、謎解きの難しさだけを変えることができるからだ。さらに、ゲームを進めてカメラを手に入れると、被写体を撮影することでヒントだけでなく、なんと解答そのものまで表示されるようになる。謎解きが好きでも嫌いでも、誰もが楽しめるように設計されているのだ。 典型的な王道アクションアドベンチャーだが革新性に欠ける プレイヤーは、ステルス、近接戦闘、パズル、探索など、さまざまなアプローチで冒険を進めることができる。状況に応じて最適な戦略を選択し、自分だけの冒険を創造する自由度は、本作の大きな魅力だろう。しかし、ゲームシステム自体は典型的なアクションアドベンチャーの枠を超えておらず、革新的な要素は少ない。 これは開発陣が“インディ・ジョーンズらしさ”を最優先に考えた結果だろう。奇抜なシステムや複雑な操作は、かえって『インディ・ジョーンズ』の世界観を損なう可能性がある。本作はあくまでもインディ・ジョーンズのファンに向けた作品であり、雰囲気を忠実に再現することに重きを置いた、まさにファンのためのゲームと言えるだろう。 没入感を阻害する操作性 王道の冒険活劇として高い完成度を誇る本作だが、無視できない欠点も存在する。それは操作性、とくにドアや鍵の操作に関する部分だ。 一般的なゲームならドアを開けるときはボタンを一度押すだけ、もしくは押す必要もない。ところが本作ではドアを開けるために、ボタンを押して対応したスティックかキーを押すという2回動作を求められる。ドア以外のさまざまな小物でも求められるのだが、ドアはどこにでも出てくるので、テンポの悪い印象が残る。 もしドアに鍵がついていれば最悪だ。アイテム欄から鍵を選択してボタンを押してドアに手をかけて、対応するスティックかキーのUIが表示されるまで、ひと呼吸おいて表示に従うことで、やっとドアを開けられる。探索パートでは鍵付きのドアがたくさん出てくるので、もはや悪夢だ。 いったいなぜこんな無駄な動作を取り入れたのか、理解に苦しむ。没入感が増すどころか面倒すぎて没入感が削られていく。 ステルスゲームとしては物足りない自由度の低さ 戦闘アクションよりもステルスゲームの要素を多く含む本作だが、ステルスゲームとして見ると自由度に欠ける面がある。どのように警備を潜り抜けるかという小さな選択肢はあるが、侵入経路の選択肢は限られており、プレイヤーの独創性を発揮できる場面は少ない。 ただし、本作は謎解き要素も重視しているので、謎解きポイントにプレイヤーを誘導するには行動をある程度制限する必要があるため、これはトレードオフと言えるかもしれない。 よかった点 ・映画シリーズへの深い愛情とリスペクトが感じられる ・一人称視点による圧倒的な没入感 ・CGドラマ級のムービーシーンの数々 ・ハリソン・フォードの再現度の高いCGモデリングと声優の演技 ・豊富な収集要素とサイドクエスト ・磨き上げられたグラフィックとサウンド ・ほどよい難度で楽しめる謎解き要素 ・謎解きが苦手なプレイヤーへの配慮 悪かった点 ・ドアや鍵開けなどの操作性に難がある ・ステルスゲームとしては自由度が低い ・アクションアドベンチャーとしては革新性がない 結論として、『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』はインディ・ジョーンズというIPへの愛と敬意が結実した、映画とゲームの融合を実現した作品だ。革新性や操作性には課題はあるものの、インディ・ジョーンズの世界を体験できるという点においては比類なき作品と言える。 インディ・ジョーンズのファン、そして映画的な冒険を体験したいプレイヤーには、ぜひ手に取ってほしい1本だ。 [2024年12月6日20時42分修正] 一部表記に誤りがあったため、該当の文章を修正いたしました。読者並びに関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。