井上尚弥、“ボクシングとの向き合い方”を変えたドヘニー戦は圧巻TKO それでも試合が「楽しくなかった」と語った理由
「ちょっと中途半端な終わり方になってしまった」と無念
ドヘニー戦実施決定が発表された今年7月の記者会見で、「技術の差を見せて、完封したいと思います」と宣言していた井上だけに、まさに有言実行。試合後の傷ひとつない顔は「完封」を十二分に印象付けた。 たしかに“モンスター”の破壊力を示す衝撃的な決着であり、相手に反撃の余地を与えないスキルも流石。井上尚弥が絶対王者たる所以を物語る内容だった。だが、そこには“消化不良”という雰囲気も少なからず残ったのも事実だ。 それは他でもない本人も認めるところである。試合後、どこか不満げな表情を見せた井上は「自分が理想としていた終わり方ではないので、たぶん見に来てくれたファンの方もやっぱりそうだと思う。ちょっと中途半端な終わり方になってしまったかな」と無念そうに語った。 「これを言ってしまうと見に来てくれたファンの方に申し訳ないですけど、守備、守備に回る選手と戦っていて、正直、楽しくはなかったですね」 今年5月のルイス・ネリ(メキシコ)との東京ドーム決戦で1ラウンドにキャリア初ダウンを喫し、ボクシングとの向き合い方も変わった。そして「あの1ラウンドがあったからこそ自分はまた強くなれた。そこは感覚的にも成長した、良い経験と捉えている」と言う井上は調整段階から己と格闘を続けてきた。だからこそ、相手が“亀戦法”を講じた22年のポール・バトラー(英国)戦がそうであったように守戦を選択した相手との試合はスリリングではなかったのかもしれない。 来る次戦は12月が有力視され、相手はIBF&WBO1位のサム・グッドマン(豪)が候補として挙がる。ここから先は将来的なフェザー転級も見据えながらの戦いとなる中で、井上はどう突き進むのか。「楽しくなかった」と言いながらも、「これから身体作っていって、それも視野に入れていくことはできるのかなと、そういう試合になったかな」とわずかな手応えも口にした偉才の声色は少しだけ明るくなっていた。 [取材・文:羽澄凜太郎]