国策の転換期 原子力「最大限活用」方針に賛否【2024衆院選 エネルギー政策の論点】①中長期計画
「原発回帰」の主張が一部の党で強まっている衆院選。政府内では既に、原発の「依存度低減」から「最大限活用」へかじを切る方向で、新たな中長期計画の議論が加速している。エネルギー政策の転換期に迎える衆院選の結果は、この国の将来の脱炭素政策や成長戦略に加え、原子力の立地地域などの在り方にも大きく影響を及ぼす可能性がある。 衆院選広島1~6区の立候補者一覧(計21人の略歴) 「今回、各党の姿勢がよりクリアになり、二極化しつつあるようだ。結果次第でエネルギー政策の在り方に大きなインパクトを与える」と、原子力資料情報室の松久保肇事務局長は注視する。 今回の衆院選は、エネルギー政策が大きく転換する分岐点で民意が問われる構図になる。 2021年10月に閣議決定された現行のエネルギー基本計画(エネ基)は、「可能な限り原発依存度を低減する」とし、原発新増設を進める文言はなかった。しかし23年7月に閣議決定されたGX(グリーントランスフォーメーション)推進戦略では原発の「最大限活用」が明記され、従来の姿勢から転換した。 背景には、ロシアによるウクライナ侵攻を機にエネルギーの安全保障や燃料高騰のリスクが再認識されたことなどが挙がる。電力など幅広い産業に影響を及ぼすだけに、経済界も「最大限活用」を求める声を強める。 この流れの中でことし5月、次期エネ基の議論は始まった。ある関係者は「『原発の最大限活用』を明記する方向で進んでいる」と明かす。 次期エネ基は、40年度に目指す電源構成を定める見通し。世界に公約した脱炭素目標を踏まえ、原発と再生可能エネルギーをどう配分するのかが最大の焦点だ。電力の安定供給をどう図るか、原発の新増設をどう位置づけるか、迷走する「核燃料サイクル」は堅持するのか―。重要な論点が山積みになっている。 エネルギー政策の行方は、中国地方にも影響する。中国電力が山口県上関町で建設を検討する中間貯蔵施設は、原発から出る使用済み核燃料の保管場だ。原発活用を進めれば重要性はより高まる。周辺市町に懸念が強い中、国の説明責任や関与の在り方も問われる。 中電が30年度までの運転開始を目指す島根原発3号機も、スケジュールなどの計画が国策に左右される可能性がある。
エネルギー基本計画
日本の中長期的なエネルギー政策の指針で、エネルギー政策基本法に基づき政府が策定する。電源構成目標や資源確保の方針を示し、電力会社など民間企業の投資計画にも影響を及ぼす。2003年に初めてまとめて以降、おおむね3年ごとに見直している。経済産業省はことし5月、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で次期計画の議論を始めた。