日銀政策金利「まさかの」2%到達が「現実味」を帯びている3つの理由
【2点目】シルバー民主主義的利上げ
2つ目は、シルバー民主主義的利上げとも言うべき視点。日銀の利上げが「円高→輸入物価低下→家計の実質的な購買力増加→実質個人消費拡大」といった具合にうまく広がれば、実質GDPにプラスの効果をもたらせる。 ただ、日銀の利上げが円高を誘発するかは議論の余地があり、また企業収益に与えるマイナス影響を考慮すれば、利上げがマクロ的にプラスの影響を与えるかは疑問であるが、前回利上げ局面の2000年代後半に比べて、(企業の生産拠点が海外に移ったことや、企業が通貨安を活用し価格競争力を高める戦略に距離を置くようになったことで)円安による輸出増加を通じた景気浮揚効果が弱まっている他、高齢化によって輸入物価上昇(特に食料・エネルギー)に対する脆弱性が増していることは重要だろう。 日銀が算出する実質消費活動指数によれば、食料品、衣類、日用品・雑貨などが含まれる非耐久財は減少傾向が続いており、この背景に値上げがあることは言うまでもない。 もちろん、2011年の東日本大震災に起因する原発停止とそれに伴う貿易収支の構造的赤字転換によって、円高のデメリットが抑制されたことも、前回利上げ局面との重要な相違点である。利上げが円安抑制につながることを所与とすれば、少なくとも利上げのマイナス影響は小さくなっていきそうだ。
【3点目】もしトリ的利上げ
3つ目は、もしトリ的利上げという視点。これは日銀の政策態度が「物価一点集中主義」に変貌することを意味する。「物価は中央銀行、景気その他は政府」というすみ分けの下、消費者物価が2%を超えるならば、中央銀行は物価上昇の質にかかわらず、粛々と利上げを実施する。 それに近い政策態度を採っていた事例として、トリシェ総裁(2003-2011年)が率いたECBがある。トリシェ総裁は、ギリシャの財政不安に端を発する債務問題が広がりを見せていた2011年4月と7月に、原油高を直接的な原因とする物価上昇に対して利上げを講じた。 似たような要因で消費者物価上昇率が2%を超えている現在の日本で「もしもトリシェ氏が日銀総裁になったら」、日銀は連続的な利上げに動くのではないだろうか。 なお現在の物価上昇の質という点で、その背景にある賃金上昇について付言すると、必ずしも良質なものとは言えない。はっきりとした賃上げが30年もなかった日本では「理由は何でも良いからとにかく賃上げを!」といった空気があり、人手不足を理由とする賃金上昇も歓迎される傾向にあるように思える。 賃金・物価がゼロ近傍に粘着してしまう「沼」から脱出する段階で、賃上げの質を問う余裕はないのは事実であり、この点において人手不足を理由とする賃金上昇は大きな役割を果たしてきた。 ただし人手不足を理由とする賃上げは必ずしも労働生産性の改善を伴わない。こうした賃金上昇は、同分の物価上昇を引き起こすことで、実質賃金の増加を阻み、国民の厚生を豊かにしない。 ぜいたくを言えば、労働生産性の上昇が必要ということになるが、それは日銀の金融政策では解決し難い問題である。日銀が賃金、物価上昇の質に拘ならい姿勢を明確にすれば連続的な利上げ方針を掲げる可能性が高まる。その場合、政策金利の2%到達が現実味を帯びる。
執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代 宏一