のん「純度の高い『好き』を見つけると強くなる」 映画『私にふさわしいホテル』に主演
今の自分を培った10代の頃の「何もない時間」
――加代子は、文壇の権威の象徴である東十条先生の酷評によってデビューの場を失い、まだ単行本を出してもらえない状況にありますが、大学時代の先輩で大手出版社の編集者・遠藤道雄(田中圭さん)の力も借り、いつかのし上がってやると闘志を燃やしています。のんさんにも、加代子のようになかなか評価を得られないと感じた時期はありましたか? のん: 加代子のようなフラストレーションを私が抱えていたのは、10代の頃です。オーディションになかなか受からず「もっと演技をしたいのに」と、ずっと思っていました。思うように評価が得られなくて、鬱屈した思いを抱えていましたね。 ただ時間はたっぷりあったので、映画を観たり、散歩をしたり、友達と遊んだり、意味もなく降りたことのない駅に降りてみたりと、インプットに時間を使うようにしていました。本屋さんで一日中過ごして、あまりに長い時間いるから、店員さんから「何をしに来たんだろう」と怪しまれているのではないか、いやいや店員さんの目をかいくぐってもうちょっと居座ろう、なんて勝手に脳内で店員さんと攻防を繰り広げたことも(笑)。何もない時間をすごく楽しんでいましたね。今の自分が好きなものは、10代のその時間で培われた気がします。 ――ひと芝居を打つなどさまざまな作戦を講じてチャンスをつかみ取ろうとする加代子はなんともたくましいですが、気持ちを切り替えられずに、鬱屈した気持ちを引きずってしまうと「評価されないということは、自分には向いていなかったのか」「才能がなかったのかも」と考えてしまう人もいると思います。どうすれば自分を諦めずにいられるのでしょうか。 のん: 誰かの気持ちや評価が入り込む余地がないくらい、純度の高い好きなものを見つけた人は、強いですよね。加代子の「自分の書いたものをたくさんの人に読んでもらうんだ」という情熱が途切れないのは、すごく純粋に、小説や書くことが好きだからだと思うんです。その「好き」の純度が高いから、評価されなくても強くいられるし、敵も味方も振り回すくらいのバイタリティが生まれるんじゃないかな。 加代子は本当に孤独だと思うんです。味方だと思っていた人も100%味方というわけではなかったり、同じ気持ちを共有している人が、自分の小説家としての人生を邪魔している人だったりする。周りが敵だらけで、たったひとりで戦っているんですが、あそこまで強くいられるのはなかなかできません。私は、自分の好きな気持ちに賛同してくれる人を見つけて、話を聞いてもらうことも大切にしています。