美術館にモードが誘われるとき:ポンピドゥー・センターの特別展から見るアートとファッションの共鳴
10番目は若手デザイナーのマリーン・セル。現代アートの父と言われるマルセル・デュシャンの作品群に合わせてある。セルの衣装は2021年春夏コレクションで、全ての素材はエコ・レスポンシビリティの認証を受けたものだ。衣装の先にあるデュシャンの作品とのシンクロが面白い。 次は1部屋に2対の作品が対角に置かれている。ジャン・ポール・ゴルチェとヴィルヘルム・フレディ、マルタン・マルジェラにジョルジョ・デ・キリコである。 ゴルチェのコルセットは、1988-1989年の秋冬プレタポルテコレクション。フレディの『修道女の祈り』との突き合わせがいい。
マルジェラの2004-2005年秋冬プレタポルテコレクションは、キリコの形而上絵画と組み合わせられた。いずれも既存のスタイルや考えに反発して、新たな境地を切り拓いてきた芸術家同士である。
その後に見えてくるのがイッセイ・ミヤケの1989年秋冬コレクション「ミュータント・プリーツ」。アンス・アルトゥングの『T 1956-14』と並ぶ。三宅一生は7歳のときに広島で原爆を体験した。アルトゥングは第2次大戦で片足を切断した経験を持つ。2つの作品が並ぶことで、どことなく戦争の不気味さが漂うようだ。
日本人同士の共演もある。ヨウジ・ヤマモトの1986年秋冬コレクションは、前衛芸術グループ「具体美術協会」の中心メンバーだった白髪一雄の『地然星混世魔王』の横に置かれた。山本が織りなす黒のフロックコートに赤いバッスルという雰囲気に、足を使い全身から絞り出すように描く白髪の力強さが、見事に相乗効果を生んでいる。
展示の締めは1947年のディオール
14着の衣装の見学を終えて、展示も終盤に入る。ケヴィン・ジェルマニエの2022年春夏コレクションが、ウルリケ・オッティンガー『愛の真珠』のパートナーとして掛かる。ジェルマニエによるリサイクルビーズを使用した全身を覆うカラフルな衣装は、オッティンガーのポップな画風と相性が良い。