コロナ禍で進む「GIGAスクール構想」 デジタル教科書への期待と懸念
酒井さんは、デジタル教科書の強みであるネット上の膨大な学習教材にアクセスできる機能も、マイナス効果が大きいと指摘する。 「ネットに慣れている人ほど、自分で考える前に検索したり、さらにリンクをたどって解説動画を見たり、検索して答えを得ようとしたりするのではないでしょうか。これは極めて危うい状況です。すぐ正解がわかってしまうと、自分で答えを見つけようと考える時間がなくなってしまいます。それは、頭を使わなくていいように頭を使うようなものですから、学習にはマイナスですね」
将来は「個別最適な学び」に
小金井小学校教員の鈴木さんも、クラスでの動画の使用には注意が必要だという。 「理科の実験を体験する前に、実験の結果まで動画で見せてしまえば、興ざめします。動画のインパクトは大きいだけに、ここぞというタイミングで見せるようにしています。デジタル教科書の時代になると、教師の授業デザインの能力が問われるでしょうね」
昨年11月からキーボード付きタブレット端末を支給され、デジタル教材を使っているという大田区の小学6年の男子は「紙のノートに書いたほうが、腕の動きで字を覚えられる感じがする」と答えた。一方で「みんなの宿題レポートをクラウド上で共有しているんですが、それを見ると、自分ももっとちゃんとやらなきゃという刺激になる」と語った。紙には紙の、デジタルにはデジタルの良さがあるようだ。 文科省の「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」で座長を務める、東北大学大学院情報科学研究科教授の堀田龍也さんは、紙とデジタルの使い分けは「児童生徒たちに任せればいい」と考えている。 「実際に使ってみて児童生徒と教師の試行錯誤の中で、どういう場面ではデジタルがいいのか、あるいは紙のほうがいいのか、落とし所が見つかることを期待しています」 堀田さんによれば、デジタル教科書の使い方が発展していけば、児童生徒の「個別最適な学び」が進む可能性があるという。