スーパーセブンとはどんなクルマか? 天才的な「割り切り」の設計
前回の原稿ではロータス・セブンがどの様な目的で設計され、その後製品としてどう位置付けられてきたかを解説した。今回は機械としてのセブンがどんな思想に基づいて、どう設計されているかについて考察してみたい。
軽量化へ「最良の妥協点」見つけ出す
およそエンジニアリングというものは、割り切りが大事だ。10人乗りのコンパクトカーが成立しないように、設計の要素にはトレードオフになる要件が無数に存在する。巷では妥協の無い設計という言葉がよく聞かれるが、設計とはそもそも目的に沿った最良の妥協点を見つけ出す作業だ。 前編で説明したように、セブンはレース向けに設計されたクルマなので、ロードカーとしては多くの割り切りがある。レースに使うならサーキットでの最大負荷に耐えられる様に、サスペンションを固める。固ければ当然サスペンションは動かない。だからストロークが大きくなった時に矛盾が出ることは割り切る。割り切ることで部品点数を減らして軽量化するのだ。 ロータス・セブンのフロント・サスペンションのアッパーアームは、フロント・スタビライザーを疑似的にアームに見なす設計がされている。スタビライザーは本来のアームと90度違う揺動軸を持ち、幾何理論的には全く動けない設計だ。それでも動くのは現実世界ではゴムブッシュのたわみと、ばね鋼で出来たスタビライザーの変形があるからだ。もちろんそのゴムとばねの吸収範囲を超えればサスペンションとして機能しない。
これは極めて特徴的な設計で、狙いは構造の単純化と軽量化。諦めたのは乗り心地と厳密なジオメトリー管理だ。チャプマンの多くの設計はこういうある種の「全方位にはちゃんとしない」ことでメリットを拾い出す奇策に近いもので、会議で欠点を洗い出す様な真面目なエンジニアには絶対できない。そしてその彼の割り切りにこそ才能が感じられるのだ。 これはリア・サスペンションにも通じることで、概念的にはロータス・セブンのリアは左右が繋がった1本のアームと見なすことができる。フレーム側もデフ側も車軸と同方向の揺動軸しか持たないので、サスペンションは片側だけ動かない。凸に乗り上げた時、理論的には左右が同時にストロークするのだ。これをたわみと変形で多少なりとも片側だけ動くようにするのがリアの三角形のアームだ。 車体側の取り付け部はフレームの一番外側左右幅いっぱいに取ってある。ここから斜めに後方に伸びたアームはデフの真下で左右幅5cmそこそこでマウントされる。言い換えればフレーム側は棒の左右をいっぱいに握っている状態。デフ下は棒の真ん中をほぼ両手をくっつけて握っている状態。つまりデフ側は支持剛性を意図的に低く取ってあるのだ。つまり、リアもまた曲げとたわみで左右輪の動きの差を受け止める設計なのである。