最果タヒ「ずっと好きですと伝えたい」
伝えなくてもいいはずで、それでもそこにこだわるのはどうしてなんだろうな。ファンが届けるものは、誠意があってマナーがあればよいはずで、それになによりなんだって自己満足ですよ、という考え方もあるけれど、自己満足だと自分で自分に言ってしまったらおしまいのような気もする。実際にそうだったとしても、どんなに遠くても、人に心を寄せるのはコミュニケーションだ。相手がいる、相手も人だ、その人のことを考えて、考え尽くしてその結果が「自己満足」と先回りして言ってしまうのは、とても悲しいし、それじゃあいろんなことを見落としてしまうようにも思う。 舞台という場所にいる人は、千秋楽の後、次の舞台まで長い時間をかけてお客さんのいないところで作品に向き合っていくし、私は多分、そこで待っていますと伝えたくて、だから、「ずっと」と思っていることをどうしても伝えたかったのだろうと思う。ただそれは私がそう思っていると伝えるだけじゃ多分とても不十分で、だって未来の私が伝えるわけではないし。私は無邪気に未来の話までするけど、未来が本当に見えているわけではないし。「好き」って、脆くて淡いものだって、私もこれまで自分に向けて言われる言葉で何度か気付かされてきたし、それはさみしいことではなくて、しかたがないことなんだけれど、でも、そのしかたがなさを越えて「ずっと」って伝えたいと私は思っている。ちゃんと伝えたいって。
それは、自分がどれくらいそう思い込めたらとか、そんな話ではなくて(というか私はとっくに「ずっと」と思っている)、これは約束で、誓いなんだって、ある時急に思った。信じてもらうにはどうしたらいいかとか、本当だとちゃんと伝えるにはどうしたらいいか、ではなくて、そういうふうに「ずっと」の証明を探すのではなく、自分自身がその証明として真っ直ぐでいるしかないのだ。ただ、大好きな人に約束することでしかない。 それで、私は「ずっと」と言えるようになった。ずっと好きです。ずっとあなたの舞台を楽しみにしています。そう言えるようになれたことが今とても嬉しいです。 連載「ブルー・スパンコール・ブルー」は今回で最終回になります。 ご愛読ありがとうございました。 本連載をもとにした単行本が中央公論新社より発売予定です。
最果タヒ