【社説】日中首脳会談 課題解決へ対話の継続を
日本は米中二大国とバランスの取れた外交を展開する必要がある。中国首脳との対話を増やし、政府間協議を各レベルで重ねて課題解決に取り組んでほしい。 石破茂首相が訪問先の南米ペルーで、中国の習近平国家主席と初めて会談した。日本の首相と習氏の会談は3年連続で、昨年11月の岸田文雄前首相以来だ。 両首脳は日中の共通利益を拡大する「戦略的互恵関係」の包括的な推進と、建設的かつ安定的な関係を構築する方向性を確認した。この共通認識を歓迎したい。 今後も首脳会談を続ける方針で一致した。外相の相互往来や閣僚級の「日中ハイレベル人的・文化交流対話」「日中ハイレベル経済対話」の実行も申し合わせた。 両国間の課題では、日本産水産物の輸出再開に前進があった。東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出したことを受け、中国は輸入停止を続けている。 9月に再開方針に合意しており、今回は最高指導者の習氏との間で「きちんと実施する」と確認できた。 再開の具体的な時期は示されなかった。首脳会談を踏まえ、できるだけ早期に双方の高官、実務者が協議して実現を急いでもらいたい。 日本産牛肉の輸出再開や精米の輸出拡大も、両国間の意思疎通を継続することで合意した。 今回の首脳会談は日中関係の先行きについて、総じて前向きな成果を打ち出すことができたと評価できる。 背景の一つは、来年1月に米国で対中強硬姿勢のトランプ政権が再スタートすることだろう。経済不振が続く中国は米国への懸念を強め、日本との関係安定を重視するようになった。 対米協調路線を加速させた岸田政権を受け継ぐ石破政権が、中国との対話を重視するシグナルを発していることも中国に対日姿勢の変化を促したようだ。 日中は経済的な結びつきが強く、貿易推進などで相互利益を得る。自国優先のトランプ政権に対し、日中が協力して協調を呼びかける場面も出てくるだろう。 一方、日中の間には多くの難題が横たわる。 中国は軍事や経済の力を背景に覇権的な動きを強め、アジアの緊張を高めている。中国艦船が繰り返す日本領海への侵入は看過できない。偶発的衝突を回避するには、ハイレベルを含む対話と協議が欠かせない。 中国に拘束されている邦人の解放、日本人児童刺殺事件の詳細な説明と再発防止策などは、会談で具体的な進展がなかった。 戦略的互恵関係を形にするのはこれからだ。長く冷え込んでいた日中関係を安定軌道に乗せるためにも、石破首相は早期の中国訪問を検討すべきだ。習氏との会談を定期化させたい。
西日本新聞