【Jリーグ】東京V躍進の立役者・木村勇大が恩師と初対談「ジュニア時代に“ヴェルディ・イズム”を学んだ」
ヴェルディ帰還
亘 チームメイトが就職活動に力を入れる中、木村選手は考えなかったの? 木村 ありがたいことに、2年生の終わりのころ、最初にヴェルディが練習に呼んでくれて。大体3年生の途中から就職活動が本格化するので、その前に「プロになれるかもしれない」、という希望があったので、就活を考えませんでした。 亘 なるほどね。小学校4年生から知っている木村選手がプロになるのは感慨深かったんだけど、1個1個クリアし、昨季、京都でプロとしてのスタートを切り、久しぶりにヴェルディのユニフォームを着て戦った2024シーズンはどうでしたか。 木村 楽しかったです。思ったよりやれるっていう手応えも強かったですし。これまではいけると思ったらつまずいて、またいけると思ったらつまずいて……の連続だったんですけど。なぜなんだろう? と考えてみると、脳の問題なのかな、と。例えば小学生のときにヴェルディに入ったときも、そもそも実力を認められて加入が認められているわけで。最初についていけなかったのは、持っている実力を発揮できていなかったから。じゃあ、それはどうしてかというと、プレースピードとか切り替えの速さについていけなかった。これはカテゴリーが上がって、大人になればなるほど顕著に出てくるんです。 例えば、大学のときも最初、本当についていけなくて、かなり焦っていたんですけど、1カ月もすれば普通にやれるようになっていました。それ以前のレベルから、頭が切り替わっていないだけだったんだな、と。技術云々ではなく、そのプレースピードに頭がついていくかいかないか。昨季は京都であまり出場機会を得られなくて、金沢に移籍しても全然ダメで。今年、J1に復帰したヴェルディに来て、やっぱりレベルが高いなと思いましたけど、頭を早めの段階でアジャストできたのは本当に良かったですし、それが結果につながったと思います。 亘 なるほどね。小学4年生のときのヴェルディでも、スタートは辛抱の連続だったと思うけど、徐々に自信がついていって。で、夏ぐらいになったら、もうとにかく「ボールを出せ」って仲間に要求していたもんね。自信ついたんだな、と感じたことを覚えている。プロ1年目の昨季は苦しんだかと思うけど、今季のヴェルディの試合を見ていても、どんどん周りに要求しているもんね。 木村 そうですね。大学のときは自信満々で、そのままこの世界に入ってきて、昨季は自分を見失いかけて……。だから、ヴェルディに移籍してきて、最初はあまり自分自身を信じられない感じだったのは確かです。でも、プレーしていく中で「俺ってこういう選手だよな」というのを思い出して、自信を取り戻したのがプレーにも出ているんじゃないかと思います。 亘 城福さん(浩監督)のサッカーにアジャストするために考えていたことはどんなこと? 木村 守備です。守備ができるのは城福さんのサッカーのスタートライン。多分どれだけすごいプレーヤーでも、守備ができないと話にならないし、そもそもスタートラインにも立てない。ただ、入ってすぐに「このレベルまでの守備」というのが明確に示してくれました。 守備は苦手でしたけど(苦笑)、まずはその最低限のラインまで持っていくっていう努力はしました。 亘 守備の面で注意されたことは? 木村 自分では結構(相手に)寄せている“つもり”みたいなことが多くて。例えば2、3歩前までは寄せるけど、最後、どうせ取れないし……みたいな感じで緩めてしまっていた部分があったんです。そういうときに、「ちゃんと目の前まで寄せ切れ」というのをキャンプ中などに何度か言われました。「(緩めることを)体に染み付けるな」と。 亘 プロになると、言われるのがいやな選手もいたり、プライドが出てきて、素直には聞けなかったりすることもあるとは思う。でも、そこはやっぱり謙虚に思えることが大事だよね。ちょっと話は戻るけど、「プロでやっていけるな」と思った時期はいつですか。 木村 大学4年生(2022年)に京都の特別指定で試合に出させてもらったときです。リーグ戦7試合、カップ戦に1試合と、結構な試合で起用していただいて。ある程度、僕の役割を最小限にしてくれたのもあるのですが、「やれるんじゃないか」と思いました。でも、昨年、プロとして京都の一員になって、「これは厳しい」と……。で、今季、開幕を迎えてからですかね。2試合目、3試合目で2試合連続ゴールを決めて、「これはできる」と思いました。 亘 開幕直後、本当に乗っていたね。最終的に、J1で10ゴールですから。これはすごい。クラブの手前、聞きにくい質問なんだけど、海外でプレーすることに興味はあるの? 木村 性格的になんでもかんでもチャレンジするのは好きじゃないんです。確率を高めながら、『石橋を叩いて渡る』じゃないですけど。なので、「どこでもいいから海外に行きたい」という欲はありません。まずはJリーグでしっかりとした結果を残して、その上で考える。最初のステップは、今ならオランダ、ドイツ、イングランド2部でしょうか。さらに大きなクラブ、リーグにステップアップできるチャンスが多くあるかなと思いますし、そういうリーグから声を掛けてもらえるようになったら、思い切っていきたいとは思いますけど。年齢も年齢なので、「とにかく海外」という感じではないですね。 亘 ヴェルディを選んだのもそうだし、やっぱりしっかり考えて、地に足がついているなと感じますね。まだまだ伸びていくと思うし、今後も活躍を期待しています。 木村 頑張ります。 木村勇大/プロフィール きむら・ゆうだい◎2001年2月28日生まれ。大阪府出身。YNキッカーズでサッカーを始め、小学4年時に東京Vジュニアに加入。転居で兵庫県へ移り、神戸U-12に加入。神戸U-15を経て大阪桐蔭高、関西学院大と進み、23年に京都加入。昨季はシーズン途中に金沢へ期限付き移籍、今季は東京Vへ期限付き移籍し、リーグ戦36試合10得点の活躍を見せた。 亘崇詞/プロフィール わたり・たかし◎1972年3月8日生まれ。岡山県出身。津工高在籍時にアルゼンチンへ留学し、卒業後に三菱石油水島で社員選手としてプレー。国体選手としても活躍するが退社し、91年にボカユースチームにテスト入団を果たす。92年にボカとプロ契約、93年にドック・スド(アルゼンチン)でプレーした後、94年にボカに復帰。その後、アメリカやペルーでプレー。日本では栃木SC、アルテ高崎に所属。2010年に指導者に転身。東京Vジュニアコーチ、東京Vジュニアユース監督、日テレ・ベレーザ、ASエルフェンのコーチとして一部に昇格した。その後、2015年に広東省体育彩票女子足球隊(中国)で監督を務め、17年より岡山湯郷Belle監督、岡山国体女子チームなどを歴任、22年より城西大女子サッカー部監督を務める。S級ライセンスを23年に取得 取材◎亘崇詞 写真◎高野徹、J.LEAGUE 取材協力◎山田行商