【Jリーグ】東京V躍進の立役者・木村勇大が恩師と初対談「ジュニア時代に“ヴェルディ・イズム”を学んだ」
プロ加入までの軌跡
亘 引っ越しをし、ヴェルディから移った先の新しいチームはどうでしたか。 木村 神戸のU-12に入ったのですが、ヴェルディがガツガツしていたので、神戸はみんな優しく感じました(笑)。 亘 中学ではそのまま神戸U-15に進んだのですね。 木村 かなり伸び悩みました。まず、身長が止まってしまい、身体能力もそうです。 小学校6年生と中学校3年生の50メートル走のタイムがまったく一緒で……。0.01秒も変わりませんでした。だいぶマズイですよね。中学生になると、体の大きな子もいっぱい出てくる。「これはヤバイ」と。小学校ではかなり自信があったので、ちょっとサボる……と言ったら語弊がありますけど、少し天狗になっていた部分があり、それも相まって中学がかなりしんどいことになってしまいました。今だから言えますけど……。 亘 育成年代を見てきて、僕がつくづく思うのが、そういう壁に当たったときに、やめてしまったり、逃げるのではなくて、大事なのは「どうにかしよう」とする気持ちだと思う。 木村 そうですね。中学は卒業するまで、ずっと苦しかったのですが、高校(大阪桐蔭高)で「どうにかしてやろう」という気持ちを持ってやれたのが良かったと思います。神戸U-18に上がれず、悔しかったし、「見返してやろう」と。僕と入れ替わりで神戸U-18に入った選手には、すごい実力者がいっぱいいたんですけど、負けたくありませんでした。 亘 育成に関わらせてもらって、本当は全員プロになってほしいと僕は思っているんです。でも、紙一重のところで上のカテゴリーに上がれる、上がれない、プロになれる、なれないの差が出てくる。そこに頑張る秘密、逃げない秘密が絶対にあって、木村選手もそうだったと思う。高校から関西学院大に進むわけですが、いろいろな意味で違いがあったでしょう? 木村 違いました。そもそも、レベルも高かったので。大学1年生は18歳とかで入るわけですが、4年生はもう22、23歳なので、みんな大人で。上下関係の比較的ゆるい大学ではありましたが、それでも4年生は「神」みたいな感じもあって。大学も大学で苦しんだ部分もありました。 亘 今の話しは大学のことだけれど、「クラブと部活(学校)は違う」ってよく聞かされていて。僕はそうは言いたくなかったんだけど、今、大学に指導しに行くようになって(※城西大)、やっとみんなの言っている意味が分かった。小学校の段階から指導者と「これどうなんですかね?」という話しをしていいのがクラブ。でも、大学は黙って言われたことをやってみて、ちょっと理不尽なところもあったりもして。さらに高校の部活だと、どうなのかな、と。一概には言えないし、全部が全部そういうわけではないと思うけれども。 木村 それが、大学はたまたま監督がすごく若い方で、これから経験を積んでいくということもあって、結構、会話を求めてくれたので、そこは良かったかなと。ただ、高校はカルチャーショックでした。中学まではプロクラブの育成組織で長くプレーしていたので。全然、違いましたよ。 亘 いろいろな選択肢がある中で、育成年代で自分を鍛えるチームを木村選手があらためて選ぶとしたら、どうなる? 木村 小さいときはクラブを選ぶかなと思います。技術という部分に圧倒的に差が出る時期だと僕は思うので。1年だけでしたけど、ヴェルディに行っていなかったら、多分、僕は足元が苦手な選手になっていたんじゃないかな。練習環境もそうです。手入れの行き届いた良い芝でプレーできて、夜でも照明がついて、というのは、プロの育成組織だから。ただ、これは僕の個人的な見解であって、例えば高校年代に上がると、さらに高体連とクラブとどちらがいいか、人それぞれ意見は分かれると思います。 亘 今、大学は再注目されていると思います。大学を出て、プロになった人、海外で活躍する人、今の日本代表にも大学出身者が多くいます。大学での4年間はどうでしたか。 木村 これは冗談抜きに、人によるなと思っています。僕はスポーツ推薦で入らせてもらって、3年、4年と関西(学生リーグ)も優勝して、全国でもベスト4とかだったのですが、部員数が多くて、4学年で180人。AからDまでチーム(カテゴリー)がありました。これだけ人数がいると、遊ぶやつもいるし、就職活動の時期になると練習に人が来ないとかもたくさんいます。僕は「絶対プロになる」と思って取り組んでいたのですが、練習に来てもグラウンドで就活の話をするんですよ。ある程度、学力もある大学だったので、どこそこの企業に行きたいとかっていう話が増えてきて、サッカーに対する熱量の差を感じました。下のチーム(カテゴリー)だと、練習を休んで遊びに行っている選手もいる。良くも悪くも管理がされていないというか、上を目指したいのならば自立して自制して、というのが求められるので、本当に人によって分かれるかなと思います。 亘 そうだね。 木村 良い側面で言うと、毎週どのチーム(カテゴリー)でも試合があることです。例えばプロでユースからトップに上がって全く試合に出られずに4年間過ごす選手と比べると、やっぱり大学でも試合に出続けた4年間というのは濃いなと思います。自分で考えて成長するためにトレーニングとかもやっていたので、それが今いい方向につながっているのも事実です。ただ、大卒でプロになっても、年齢が年齢なので、1年目から「この1年」にかける焦りもすごいです。そういう意味でも、昨季は「やばいな」と思って、本当に今季結果を出さなかったらプロとしては終わりだと思っていました。 亘 大学で学んだことで今に生きていることは。 木村 自分で考える力ですね。学生ですから、ちゃんと授業を受けて、単位を取って……。全部自分で考えて動かないと置いていかれるので。社会に出ていく前にそのような力を養うところに、大学の良さがあると思います。これも人によりますけど、ユース上がりで結構ちゃらんぽらんな選手もいるので(笑)。でも、若い世代で活躍しているユース上がりとか高卒の選手を見ると、僕はうらやましいです。その舞台にダイレクトで行けなくて僕は大学に進んだ立場なので。ほんとにいい側面、悪い側面、どちらもあるんじゃないかと思います。 亘 確かに、どちらの面もあるね。自立心というところで言うと、大学は自分たちで運営とかもやるし、そういうところはサッカーに限らず、勉強になるよね。でも、大学もただ行けばいいわけじゃなくて、4年間、ある程度のレベル(カテゴリー)で試合に出ることもすごく大事だと思う。木村選手は1年時からトップチームに? 木村 1年の最後ぐらいからAチームに上げてもらって、試合にも出させてもらいました。レベルの高い大学だと、プロと練習試合をしても勝つことも少なくありません。そういうところも良かったですね。アピールにもなるし。