「廃棄物」を用いた製品開発、アシックスがめざす社会全体のサステナアクション
記事のポイント①アシックスが廃棄予定食材で染色した靴を開発した②9割以上を天然染料に変えることで、化学薬品の使用を削減した③「廃棄材だからこそ生み出せる価値」を根気よく伝え続ける
スポーツブランドのアシックスが廃棄予定食材で染色した靴を開発した。9割以上を天然染料に変えることで、化学薬品の使用を削減した。「製品としても、環境にとっても良いモノ」を根気よく追求し続ける、高山慶子・スポーツスタイル統括部デザイン部デザイン・ディレクションチームアシスタントマネジャーにその理由を聞いた。(オルタナ編集部・下村つぐみ)
■ 「廃棄物」で顧客に自分事化促す
――今回、人気のシリーズであるGEL-LYTE Ⅲ OG(ゲルライトスリーオージー)/GEL-LYTE V(ゲルライトファイブ)の生地に廃棄予定食材による染色を採用されましたが、廃棄予定食材に着目したきっかけは何だったのでしょうか。 アシックスは、将来世代の人たちが未来でもスポーツができる環境を守るために、循環型ビジネスを通して、カーボンニュートラルや気温上昇を1.5℃未満にすることを目指してきました。 しかし、エンドユーザーにとって、環境問題の具体的な課題や影響度は分かりにくい場合が多いのも現状です。そのため、私たちは、自社の商品を通して、環境問題を知ってもらうきっかけづくりにも尽力してきました。 当社のスポーツスタイルカテゴリーでは、2021年から、異なる視点から環境に配慮した商品の提案を行っています。特に、当社に限らず、他業種においても大きな課題である「廃棄物」に焦点を当てた製品開発を進めています。 これまでには、今治を代表するタオルメーカーの藤高タオル(愛媛県今治市)と協力し、機械に通らない廃材となった短い糸を回収し編んで、靴の一部に使用したり、自動車部品を製造・販売する豊田合成とともに、不合格になってしまったエアバッグを靴の素材に採用してきました。 実際、靴を作る工程の中でも、染色した生地の色が合わない、糸が短すぎて機械に入らないなどによって廃棄物は出てしまいます。しかし、他業種で使えなくなったものを、私たちが製品に活用することで、社会全体での環境負荷軽減に貢献できるのではないかという考えのもと、このプロジェクトを進めています。 そのプロジェクトの中で、今回焦点を当てたのが、農園で使えなくなった食材でした。 繊維品の卸売などを行う豊島(名古屋市)は、廃棄予定の野菜に含まれる成分から染料を抽出し、染めるブランド「フードテキスタイル」を立ち上げており、今回、豊島の協力のもと、農園で出た廃棄物で靴の生地を染色するに至りました。 染色に使用したのは、ルイボスと柿、抹茶とレタスで、1990年代を飾った形状や構造を受け継ぐ人気の根強いシリーズGEL-LYTE Ⅲ OGとGEL-LYTE Vの生地に採用しました。 どちらも当社の看板テクノロジーである「GEL」がかかと部分に内蔵されており、歩きやすいと好評がある商品であるとともに、GEL-LYTE Vに関しては、ミッドソールにリサイクル素材を20%以上使用しています。 ――行き場のなくなった「まだ使えるもの」を商品に取り入れることで、消費者に環境問題を知ってもらうきっかけづくりを行われてきたということですね。染料に廃棄予定食材を採用して、伝えたかったことは何だったのでしょうか。 化学繊維や天然皮革を扱う私たちにとって、水問題は常に大きな課題でした。 サプライヤーの中では、自社工場で水を循環するシステムを導入するところもあり、当社としても、水の使用量や汚染を抑えることができる染色方法については常に探していました。そんなとき、豊島の「フードテキスタイル」にお会いし、天然由来のもので染色することで、水の汚染を少なくすることができるというお話をいただいたのが採用のきっかけとなりました。 実際にフードテキスタイルの取り組みを採用することによって、9割以上を天然染料で賄え、染色工程での化学薬品の使用を10%以下に抑えることができました。 「廃棄予定食材」を染料に使った製品を手に取ってもらうことで、お客様にフードロスに対する課題や提案を広く知ってもらう良い機会になるのではないかと考えました。