IT企業取締役から、カッコ悪いと思っていた家業へ/創業100年、町工場が生み出す理想のシャンプー ~木村石鹸工業 前編
◆「自由開発」が自社ブランドを主力に育てた
――開発者からすると非常にやりがいのある環境ですよね。 何でも好きなものを作っていい、ですからね。 おかげでOEMでもヒット商品が出まして、売上伸長の弾みになりました。 もう一つ、この環境が自社ブランドの土壌になってくれた。 弊社の看板商品は2019年にデビューした『12/JU-NI(ジューニ)』というヘアケアシリーズなのですが、開発者である多胡健太朗はある日いきなりうちにやって来たんですよ。 ――採用フローを経てではなく? いえ、募集すらしていませんでした。 「木村石鹸では好きなものを自由に開発できる」とうたったメディアの記事を読んで、理想のシャンプーを作りたくて来ましたと。 「うちはシャンプーやってないよ」と言いましたが「大丈夫です」って(笑)。 彼が5年がかりで作り上げた『12/JU-NI』は、自社ブランドのゲームチェンジになりました。 それまではコアなファンに支えられていたものの、事業としての売上は全体の15%ほどだったんです。 OEMが伸びて稼ぎ頭になっていたので、自社ブランドの比率が上がらなかった。 ところが『12/JU-NI』の登場で好感触を得たので、全社に「自社ブランドをメイン事業にする」と宣言しました。 それ以降急激に伸びまして、現在は自社ブランドが売上の40%を占めています。
◆まとめ
自社ブランドという新たな柱の成長を支えたのは、実は連綿と受け継がれてきた「木村石鹸のスタンス」だったという。後編は、木村氏が父から学んだ経営哲学や驚くべき決断力、そして次世代への事業承継について語ってもらう。
■プロフィール
木村石鹸工業株式会社 代表取締役社長 木村 祥一郎 1972年、大阪府八尾市生まれ。1995年に大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)を立ち上げる。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月にイー・エージェンシーの取締役を退任し、家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。現在に至る。
(文・構成/埴岡ゆり)