IT企業取締役から、カッコ悪いと思っていた家業へ/創業100年、町工場が生み出す理想のシャンプー ~木村石鹸工業 前編
◆「暗黒時代」に染みついた「言ったもん負け」精神
――ポジティブな印象を受けられたのですね。 ただ、社のムードは前任者による7年間の「暗黒時代」が大きな影を落としていました。 新しい案件に対し、ものすごくネガティブで消極的だったんです。 「新しい商品を開発したい」「こんな商品面白いよね」と話しても、できない理由がバーッと上がってきて、あまりに開発が動かない。 営業も新商品のアイデアを自社ではなく他社に相談していたほどでした。 その方が親身になってくれるからと。 自分たちで物を作るメーカーなのに、この雰囲気は非常に厳しい。 当時はOEMの業績がどんどん落ち込んでいて、その建て直しも必要だったのですが、抜本的に異なる構造の事業を作らないと利益率の改善が全くできないと思いました。 物作りに加えて、売ることもやっていけば光は見える。 でも非常に保守的なモードでは改革を進められないと感じました。 ――まさに「ベンチャー事業承継」の発想ですね。それを実現するために、まずは社員の意識を変えることに注力されたのでしょうか? 家業に戻ってすぐ、ベテランの営業に「この会社は言ったもん負けなんですよ」と言われたんです。 暗黒時代、彼が獲得した案件のために大規模な設備投資をしたのですが、クライアントが外資企業に買収されて契約に見直しがかかり、最終的に破棄されてしまったんです。 もちろん設備投資にゴーサインを出したのは経営陣ですが、「提案したお前が責任をとれ」と営業の彼が責められた。 だから「新しいことをやるよりも、今やっていることを続けていた方が絶対得じゃないか。開発部も含め、うちの社員はみんなそう思っています」と言うんです。 これは駄目だと思いましたね。 そこで最初に着手したのが、稟議書をなくすこと。 新規取引先から原料を購入するのに口座を開きたいとか、細かいことまで何でも稟議書を上げてくるんです。 社員が20数名しかいないのに、僕のもとに届いた時にはすでにハンコが6、7個押されている。 要は連判状になっているんです。自分だけではなく、みんなが認めているからと、責任を押し付け合っている。