突然かかってきた税務署からの電話…「答え」を間違えた人が陥りやすい「落とし穴」とは
目的の見えない質問攻め
調査当日、午前10時に調査官はやってきた。ベテランと中堅という風情の二人組だった。 栗田さんは「税務調査」であるということを聞かされているだけで、調査の目的がいまいちよくわからない。調査官は、 「お父様の趣味はなんだったんですか?」 などと、やはりなにが目的なのかわからない質問を投げかけてくる。どこに「地雷」が埋まっているのかわからない栗田さんは、口ごもりながらおずおずと答えることしかできない。 すると、ベテラン風のほうがなにげない口調でこう質問してきた。 「生前お父様から贈与を受けていましたか?」 栗田さんは質問の意図がよくわからなかったが、父親から贈与を受けたという記憶はない。とりあえず正直にしておいたほうがいいだろうと、 「ありません」 と答えた。その途端、調査官二人が意味深なアイコンタクトを取る。中堅風の調査官は自分のカバンからファイルを抜き出すと、くだんの名義預金の口座に関する情報が印刷された紙を取り出した。 それまで調査官は名義預金の話などまったくしていなかったので、栗田さんは不意をつかれて絶句してしまった。 調査官は紙を見せながら追い打ちをかけるように問い詰めてきた。 「この通帳は、お父様が栗田さんの名義で預金したものだと思います。栗田さんはいま『生前贈与を受けたことがない』とおっしゃいましたが、では、これはお父様が生前に栗田さんに贈与したものではなく、相続財産であるということでよろしいですね?」
「答え」を間違えた
どういうことか説明が必要だろう。 栗田さんが発見した名義預金は、生前に父親が動かしたおカネなので、父親が栗田さんに「贈与」をしたものだと解釈することができる。 と同時に、父親がただ単純に栗田さんの名義で自分のおカネを貯めていただけだと解釈することもできる。その場合、名義預金は父親の財産ということになり、「相続財産」に繰り込まれてしまう。相続税の課税対象となるのである。 もし栗田さんが、「生前贈与を受けたことがあるか」という質問に「はい」と答え、「くだんの名義預金は生前贈与だった」と言っておけば、税務署の判断にもよるが、贈与と認定され、その課税額は大したものにならなかった可能性がある。 しかし、栗田さんは「生前贈与はなかった」と答えてしまった。それゆえ名義預金は「相続財産」と解釈されてしまい、その結果、栗田さんは相続税に関してかなりの額の追徴を支払わざるを得ない状況に追い込まれてしまったのである。 もともと栗田さんは当初の申告で、相続財産約7000万円にかかる相続税480万円ほどを納税していた。 名義預金の500万円分にかかる税額は100万円である。栗田さんのもとからはこの100万円が追徴課税として持っていかれるのはもちろん、さらに、相続財産を過少に申告していたことや、相続税の納付が遅れたことに関わるペナルティ(過少申告加算税など)として、15万円ほどを支払う必要が出てしまったのである。 栗田さんが言う。 「私には『相続税の額を少なくしてやろう』という思いがあったわけではありません。『これは相続財産ではないだろう』というくらいの軽い気持ちでした。しかし税務署はそれを見つけ出し、きちんと申告していれば支払う必要のなかったペナルティ分まで持っていってしまった。 税務調査など自分には無関係と思って無防備でいると、余計なおカネを持っていかれるうえに、恐怖や不安といった精神的な負担を味わうことになってしまいます。事前にもっと相続税や税務調査について知っておくべきだったといまは後悔しています」