今後の大相撲に望まれるもの~大の里優勝の夏場所を振り返って
5月26日に終了した大相撲夏場所で、2場所続けて大銀杏が結えない力士が幕内優勝を飾った。23歳の新小結大の里。12勝3敗で初制覇し、幕下10枚目格付け出しデビューから所要7場所での最速記録を達成した。対照的に横綱照ノ富士をはじめ、1横綱2大関が途中休場。またも新鋭に優勝をさらわれ、番付崩壊との声も高まった。伝統文化と興行の側面を併せ持つ角界。ファンの声や過去を見つめ直すと、今後に望まれるものが浮かび上がる場所にもなった。
部屋の状況変わっても
3月の春場所では日大出身の尊富士が110年ぶりとなる新入幕優勝を果たした。こちらは一番下の序ノ口から取り始め、初土俵から所要10場所。14日目に右足を負傷しながら千秋楽で勝利して13勝2敗と立派な成績で終えた。現在では、付け出しを除いての最速優勝となっている。 尊富士がけがの影響で休場した夏場所、1学年下で日体大出身の大の里が主役になった。初日にいきなり照ノ富士に真正面から挑み、2度目の対戦で初めて勝った。番付発表前には、部屋で20歳未満の幕下以下力士と昨年9月に飲酒したことが発覚。師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)とともに日本相撲協会から厳重注意を受けた。場所前の新三役昇進の記者会見では謝罪も交じる珍しさだったが、千秋楽が終わってみれば大仕事をやってのけた。 師匠の初優勝は初土俵から実に89場所を要する遅さだった。当時は横綱白鵬(現宮城野親方)という〝絶対王者〟が君臨し、日馬富士や鶴竜といった横綱陣、エストニア出身の大関把瑠都やブルガリア出身の大関琴欧洲といった巨漢たちもいた。出世のスピードに髪の伸びが追い付かないほどの若手がすんなりと賜杯を抱くことはなかった。もちろん、192㌢、181㌔の体格を持つ大の里の潜在能力や勢いは確かだが、夏場所は一時、三役以上9人のうち半数を超える5人が休場。状況は大きく異なった。 また、場所後の5月30日の相撲協会理事会では、二所ノ関部屋付きだった中村親方(元関脇嘉風)の独立が承認された。大の里にとっては日体大の先輩に当たる親方で、何人もの力士も転籍していくだけに影響を懸念する向きもある。ただ、部屋持ちのある協会幹部は「元々、大の里は稀勢の里に付いていくという話を聞いていた。四股とか基礎を大切にする稽古を続けていけば、さほど心配ないのでは」と分析。2年連続アマチュア横綱の実績を持つ大器は、鍛錬の継続で伸びしろがまだまだ広がっている。