今後の大相撲に望まれるもの~大の里優勝の夏場所を振り返って
大相撲の魅力の一つ
しかし最近は、上記のような目立った転換点になかなか出くわすことがない。白鵬は進退が懸かった2021年名古屋場所で15戦全勝の成績を収め、自身の史上最多優勝記録を45度に更新したのを最後に引退した。結局、誰からも引導を渡されることなく現役を退いたことになる。他の横綱では、朝青龍や日馬富士がともに自身の不祥事による引責という残念な形で角界を去った例もある。 現在の照ノ富士は腰痛などにより2場所連続で休場している。夏場所前には新たに左脇腹を痛めた後は稽古で相撲を取れず、直前まで出場を明言しないほどだった。初日に大の里に敗れて翌日の2日目から早々に休場。膝にも古傷を抱えるなど満身創痍だ。 それでも1月の初場所では9度目の賜杯を抱いた。ある程度体調を整えて序盤を乗り切れば、懐の深さや差し身のうまさなどを武器にして、白星を積み重ねることができそうだ。しかも次に優勝すれば10度目。「ずっと言ってきている目標。早く達成したい」と2桁制覇に並々ならぬこだわりを見せる。けがなどで大関から一度は序二段まで転落し、そこからはい上がってきた精神力も尋常ではない。師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)の評は「モンゴル出身の中でも、大きくてこれだけ頑張る力士はなかなかいない」。32歳の一人横綱には、もう一花咲かせることが期待される。 大の里は夏場所で照ノ富士に勝ったが、横綱の状態はいいとは言えなかった。壁は高ければ高いほど、乗り越えたときのインパクトは大きい。照ノ富士に加え、夏場所で途中休場した貴景勝や霧島のけがが回復し、以前から活躍する上位陣が強さを取り戻した上で、大の里や尊富士といった若手が果敢に挑んでいく―。どこの世界でも活性化に不可欠な〝新陳代謝〟。せめぎ合った末の世代交代は、大相撲が人々を引きつける一因ともなっている。
高村収