労働環境悪化に加え、下請け的な気分の蔓延…誇り高きエリート「官僚」を取り巻く環境の今。キャリア官僚のプライドを傷つけ、モチベーションを低下させたある変化とは
2023年春の国家公務員採用総合職試験で、減少傾向にあった東大生の合格者がついに200人を割り、話題になりました(数字は人事院発表)。一方、元労働省キャリアで公務員制度改革に関わってきた行政学者・中野雅至さんは「90年代以降の行政改革の結果、官僚は政治を動かすスーパーエリートと、下請け仕事にあくせくするロボットに二極化。その結果が東大生の”官僚離れ”を招いた」と主張します。今回その中野さんの新刊『没落官僚-国家公務員志願者がゼロになる日』より一部を紹介。”嵐”の改革30年間を経た官僚の現状に迫ります。 【書影】普通のマジメな官僚が壊れていく…『没落官僚-国家公務員志願者がゼロになる日』 * * * * * * * ◆なぜ官僚はやる気を失ったのか? 日本人と言えば勤労意欲の高さが思い浮かぶが、それはもはや過去の話。 経産省が発表した「未来人材ビジョン」(令和4年)が提示している統計からは、日本人の勤労意欲が減退していて、国際比較しても「ワークエンゲージメント」が露骨に落ちていることが、はっきりと読み取れる。 それは官僚も同じだ。やる気をなくしているどころか、うつなどの精神疾患が増えていること、早期退職する者が増えていることも周知の事実だ。 それでは、なぜ、日本の誇り高きエリートである官僚が、やる気を失ったのか?
◆下請け的な気分の蔓延 ここでは、次のような理由があげられる。 まず、労働環境が悪化したことだ。ブラック霞が関と呼ばれるような長時間労働は、今以てまったく是正される気配がない。 二つ目は仕事の中身と質だ。官邸主導システムを導入した結果、政策の企画立案・調整・執行という政策形成過程の三段階で、官僚が果たす役割は大きく変化した。 特に、政策の企画立案という知的業務が官邸に独占される一方で、無味乾燥な根回しや調整だけが各省に投げられる状況がある。 三つ目は、未知の仕事が増える中で、官僚が適応できなくなっていることだ。エリートだとは言うものの、デジタル化への対応など官僚がこなせない仕事が増えているし、外郭団体が少なくなったことで民間企業に頼らざるを得ない構造も浮き彫りになりつつある。 それだけではない。実は、官僚がいまだ政策の主導権は握っていたとしても、有効な政策をひねり出せるかどうかは疑問だ。 この三つが相まって、主体的に仕事をするというよりも、誰かにやらされているという下請け的な気分が蔓延している。 三つそれぞれ単独なら問題はないのだ。いくら労働条件が悪くても、仕事は自分たち官僚が主導していると思えれば、いくらでもやる気は出てくる。しかし三つが同時に起こっていて、とてつもなくネガティブな相乗効果を生み出している。 それだけではない。官僚がやる気を失い、各省が制御不能状態に陥りつつあって、政府が機能不全を起こし始めているのではないか。これが著者が提示する仮説である。
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