労働環境悪化に加え、下請け的な気分の蔓延…誇り高きエリート「官僚」を取り巻く環境の今。キャリア官僚のプライドを傷つけ、モチベーションを低下させたある変化とは
◆「五つの人事慣行」の崩壊 労働条件が悪すぎる。とにかく拘束時間が長い。 ブラック霞が関を象徴する国会待機などはもはや誰もが知るようになった。労働時間を減らす地道な取り組みは行われてはいるものの、基本的な構造は変わっていない。それどころか、コロナ禍では常軌を逸した「殺人的」とも表現していいような長時間労働が露呈した。 ただし、霞が関の長時間労働はもはや伝統行事の域と言っても過言ではなく、かつては長時間労働であってもモチベーションは低下しなかった。 人事労務管理の環境が大きく変化したことのほうが影響は大きい。一言で言えば、キャリア官僚のプライドを大きく傷つけ、モチベーションを低下させる変化が起こったのだ。 その象徴は、以下に掲げる五つの人事慣行が崩壊しつつあることだ。 (1)同期横並びで本省課長クラスまでは昇進できる。 (2)後輩が先輩を追い抜くことはない(年次による出世)。 (3)ある程度の規則性を持っていて予測可能な昇進レース。 (4)降格などの不利益処分はなされない。 (5)斡旋によって天下りが保証される。 例えば、天下り抑止のために勧奨退職がなくなった結果、官僚の多くは定年間際まで働くようになったが、そうなると当然のことながら、管理職や幹部職員の年齢が上昇する。幹部ポストが増えるわけでもないとなると、昇任するまでの勤務年数が従来よりも長くなる。 エリートの証(あかし)であり、モチベーションとなっているのは、短期間でのスピード出世であることを考えると、やる気をなくす官僚が増えるのは当たり前である。
◆新たな魅力が醸成されている気配がない 仮にエリートキャリア官僚制度が否定されているというのであれば、それに代わるような新たな魅力があればいいのだが、そのようなものが霞が関に醸成されている気配はない。 例えば、2017年に人事院が行った30代職員へのアンケート調査では、今後のキャリア形成の方向性について「どちらかというと自分の専門性・強みを高めていきたい」と回答した者が最も多かったが、従来と同じく人事異動のサイクルは非常に短く(2年~せいぜい3年)、特定分野の政策知識が深まらない。 その一方で、「上司からの支援の欠如」や「上司からの否定的な評価」もモチベーションの低下につながっている(「人事院白書」平成29年度に掲載の図7-2)。 さらに、若手実務担当者(係長級など)についていえば、外部からの苦情などカスタマーハラスメントに相当する言動への対応を余儀なくされている(「人事院白書」令和2年度)。 例えば、職員数が減っているにもかかわらず、苦情電話が増えている(2021年は前年に比べて少し減少しているものの)ことから、職員一人当たりが抱える苦情相談件数が激増していることも大きな要因となっている(「人事院白書」令和2年度に掲載の図1-3<6>)。 ※本稿は、『没落官僚-国家公務員志願者がゼロになる日』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
中野雅至
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