なぜ西武の辻監督は7回までノーノー続行の新外国人スミスの交代を決断したのか…本人が続投打診の舞台裏
高部を内角高目、152kmのストレートで空振り三振に仕留めると、二死後には中村もこの試合で最速となる155kmのストレートで三振に斬った。外角高目、見送ればボールだったが、球威の前に思わずバットが回ってしまった。 2回は4番・マーティン(34)から、これも見送ればボールになる真ん中高目の152kmのストレートで空振り三振を奪う。3回には9番・藤原恭大(21)に150km台のストレートを5球も投げ込み、最後は127kmのナックルカーブでセカンドゴロに打ち取った。 プレーボールを前にして、辻監督は単純明快な指示を与えている。 「5回まで行ってくれれば、ということで、飛ばしていってくれという話をしました」 2013年のパドレスを皮切りにロイヤルズ、ブルワーズ、ジャイアンツ、そして昨シーズンのアスレチックスと5球団を渡り歩いたスミスは、メジャーで通算102試合に登板。5勝11敗1セーブ、5ホールド、防御率6.03という数字を残した。 もっとも先発は「13」にとどまり、特に2019年以降はすべてリリーフで登板している。2014年には右ひじを痛め、翌年4月にはじん帯再建手術、いわゆるトミー・ジョン手術を受けた影響もあり、2018年まで4年間にわたってメジャーから遠ざかった。 西武への加入が発表された今年1月。渡辺久信ゼネラルマネージャーは「先発で勝負したい、という気持ちがある」とスミスの思いを代弁している。しかし、二軍では3月26日の楽天戦で5回6失点、5日の日本ハム戦では5回4失点となかなか結果を残せない。特に2巡目になり、球威が落ちたところを痛打されるケースが続いた。 13日の独立リーグ・群馬戦で6回を2安打無失点に封じ、ようやく手にした一軍初登板のチャンス。先発のマウンドを託した辻監督は、こんな青写真を描いていた。 「やはり初めての先発で、昨シーズンまでも(先発を)やっている経験がないわけですからそう長くは放れない、と。それがフォアボールひとつですよね。ヒットを打たれずにいったわけですから、7回まで球数も少なく、非常にテンポよくストライクを先行させていってくれたピッチングは、こちらとしては本当に助かりました」 ノーヒットノーランを続行していた自身の快投をスミスは「途中からは気づいていた」と言う。 「もちろん最初から狙ってたわけではないけど、あまり意識しないようにしていたよ。ノーヒットだろうが大差だろうが、一球一球丁寧に投げることに変わりはないからね」 しかしながらイニングが進み、増えていく球数に反比例するように球速も落ちてくる。5回以降で150kmを超えた直球はわずか「3」にとどまり、結果として最後の打者となった7回表の中村の打席では140km台の前半で推移した。 迎えたフルカウント。スミスが投じた96球目、145kmの直球は快音を響かせるも、サード山野辺翔(27)の真正面を突く痛烈なライナーとなって事なきを得た。 この瞬間に辻監督は交代を即決。 過去に近藤真一(中日)が1987年8月9日の巨人戦で達成しただけの、初登板でのノーヒットノーラン達成は幻と消えた。