【円安抑止へ2つの処方箋】レパトリ減税案とNISA国内投資枠、その役割と効果を徹底検証
「時間稼ぎ」という位置付け
こうした米国の事例を踏まえ「期限を区切ってインセンティブを与える」という時限式の取り組みであれば、為替需給に影響を与えられる目はある。もちろん、「レパトリ減税ではワンショットで終わってしまうではないか」という声もあるだろうが、今求められているのは「FRBが利下げ局面に入るまでの時間稼ぎ」である。 当面はレパトリ減税の方針を示す・実際に決定する・実施するという段階があるだけで投機筋の円売りをけん制する効果は期待できる。為替介入時の議論に散見されるが、政策実施前後の為替水準だけを見て効果の有無を判断するのは本質的ではない。 市場に存在する全ての円売りを吸収する政策などそもそも存在しない。求められているのは持続的な時間稼ぎの手段であり、その中でスムージングも図ることができれば、事業法人などにとっても良好な市場環境を確保することができる。 為替市場の流れを根本的に変えられるのは米国だけだ。そうして持続的な時間稼ぎをしている間に、対内直接投資の積み上げであったり、電源構成の修正であったり、労働力の確保(≒移民政策の是非)であったりを議論することで中長期的な円相場の需給改善を図るという姿勢が王道と考えたい。
NISA国内投資枠という円安抑止策
レパトリ減税案よりも、持続的な円安抑止策として注目されるのがもう一つのNISA国内投資枠の新設だ。周知の通り、年初来の円安相場には新NISAに伴う海外株式の購入、いわゆる「家計の円売り」が寄与している側面も大きいと言われる。 財務省データに基づけば、投資信託経由の対外証券投資は今年1~3月期だけで約3.5兆円に達しており、これは過去10年平均とほぼ匹敵する規模である(図表(4))。それが主因かどうかはさておき、円安地合いに寄与しているのはほぼ間違いない。 過去の本コラム「唐鎌大輔の経済情勢を読む視点」でも再三、「家計の円売りこそ本当の円安リスク」として危惧してきたが、その懸念は半ば実現しつつあるように思える。いずれにせよ、このペースで投資信託経由の対外証券投資が出続けると仮定した場合、年間で優に10兆円を超える円売りが家計から出てくることになる。これは近年の日本の経常収支黒字の半分を食う規模だ。まだ、資産運用に着手していない層が多いであろうから、潜在的な拡大余地も大きいだろう。