「あたしはこれで終わりなんかな」伝説の踊り子についに下された悲惨すぎる「判決」
1960年代ストリップの世界で頂点に君臨した女性がいた。やさしさと厳しさを兼ねそろえ、どこか不幸さを感じさせながらも昭和の男社会を狂気的に魅了した伝説のストリッパー、“一条さゆり”。しかし栄華を極めたあと、生活保護を受けるに至る。川口生まれの平凡な少女が送った波乱万丈な人生。その背後にはどんな時代の流れがあったのか。 【漫画】床上手な江戸・吉原の遊女たち…精力増強のために食べていた「意外なモノ」 「一条さゆり」という昭和が生んだ伝説の踊り子の生き様を記録した『踊る菩薩』(小倉孝保著)から、彼女の生涯と昭和の日本社会の“変化”を紐解いていく。 『踊る菩薩』連載第48回 『裁判の場で女性を蹂躙…昭和では「常識」だった、今では考えられないヤバすぎる「男尊女卑」』より続く
一条の思い
第4回公判は11月22日に開かれた。快晴の大阪では、肌寒い空気が冬の訪れを感じさせた。 弁護側は最後に、彼女を実刑にするのは非常に酷であり、罰金刑にして更生の道を歩ませてやってほしいと主張した。 裁判官は一条に問うた。 「何か言いたいことはないか」 傍聴席から、「一条さん、頑張れ」と声が上がった。深江ら女性支援者だった。 一条は泣きじゃくりながらこう述べている。 「私のような人間が二度と出ないようプロダクションも劇場も考えてほしい。ストリッパーがオープンしなくとも、こんなひどい目にあわなくても生活していけるよう考えてあげてください」 踏みつけられている女性たちの叫びだと、深江は感じた。
運命の日
判決の言い渡しは12月6日午前10時となった。 一条の逮捕から7ヵ月。72年の師走は騒がしかった。至る所で選挙カーが候補者の名前を連呼していた。首相の田中角栄は日中国交正常化の成果をひっさげて衆議院を解散、選挙戦に入っていた。 一条は夫の吉田と2人で寿司店「一条」を切り盛りしていた。一見、気丈に振るまいながらも内心、不安で仕方なかった。漫才の中田カウスが相棒と一緒に店を訪ね、一条に泣きつかれたのはこのころだ。 判決公判の前日も一条は店を開け、化粧気のない顔で客をあしらった。訪れた週刊誌記者に、北海道や九州のファンから激励の電話があったと明かしている。 「うれしくてだいぶ泣きました。場末でストリップをやってきた女なのに、ファンの奥様方まで電話をくれるんです。がんばります。他の踊り子のためにも戦います」 ファンに励まされ、一条は客の前では意気軒昂だった。 その日は早めに店を閉めて、好きな演歌を聴いて気を落ち着けた。ずらっと並んだビール瓶をながめ、ようやく裁判も終わるんだと感慨にふけった。その夜はベッドに入っても、気が昂ぶって眠れなかった。