「あたしはこれで終わりなんかな」伝説の踊り子についに下された悲惨すぎる「判決」
「絶対に泣くもんか」
判決当日は朝の7時半に床を離れた。外に出ると、空気は肌を刺すように冷たかった。最低気温は5度を切っている。一条は期日前投票を済ませ、喫茶店で時間をつぶした。総選挙の開票は4日後である。 マスコミを避けるため午前8時20分に1人で裏門から裁判所に入った。吉田はマスコミを避けるため傍聴をあきらめた。 裁判所内で弁護士と落ち合った彼女は心配そうにこう言った。 「実刑になったらどうしよう」 これからのことを考えると、不安に押しつぶされそうだ。 開廷は午前10時。黒い法衣を着た裁判官の大野孝英が姿を見せた。一条はこのときの気持ちを後にこう語っている。 「法廷ではそれまで何度も泣いていたんですが、今日は絶対に泣くもんかって。天井を見上げていました」 罰金で済ませてほしい。実刑になったら、お店はどうなるやろ。いろんな思いが交錯する。
運命の判決は…
大野が一条に立つように促し、こう言い渡した。 「主文、被告人を懲役一月に処する」 実刑だった。 傍聴席からやじが飛ぶ。 「ナンセンス」 「裁判官こそわいせつや」 「一条さんは無罪や」 一条の不利にならないよう自重してきた深江ら支援者たちも、さすがに我慢がならず、やじが口を突いて出た。 判決理由の説明に移る。裁判官はほぼ全面的に検察側の主張を認めていた。「被告人の場合、過去9回の検挙歴がある」としたうえ、2つの執行猶予期間中であることに加え、保護観察付き執行猶予の判決言い渡しから3ヵ月にもならないのに、同じことを繰り返した点を厳しく指摘していた。そして、わいせつ性について社会通念が変遷していても、法を無視する態度は許されないと断罪した。 一方で、「被告人の行為は客へのサービス精神からだったと理解できないこともなく、生い立ちや境遇を考えると同情できるところもある」と情状を酌量している。
世間の冷たさを知る
一条は前年の71年3月に大阪地裁で懲役4ヵ月執行猶予2年、72年3月には京都地裁で懲役5ヵ月執行猶予3年の確定判決を受けて保護観察中である。 今回の判決自体は懲役1ヵ月だが、刑が確定すると、前の判決の執行猶予が取り消される。その場合、懲役期間は合わせて10ヵ月になる。 判決の言い渡しが終わると、傍聴席の女性たちが立ち上がり、一条に「頑張ってね」と声を掛けた。彼女が深江らに軽く会釈をしていると、係官が近づき、その両手首に手錠をかけた。一条は小さな声で、裏口から裁判所を出たいと伝えた。 車で大阪市都島区の大阪拘置所に移送された彼女は最初、複数の人間がいる部屋に入った。その後、一人にしてもらえた。コンクリートの上で正座していると、冷気が身体を凍らせ、気持ちがすさんでくる。昼食を提供されても口をつけなかった。 「あたしはこれで終わりなんかな。保釈金が用意できなかったら、どうなるんだろう。店はこれから、どうすればええんやろ。これでは自殺しろというてるようなもんや」 その後、劇場が保釈金30万円を支払い、一条は午後7時20分、大阪拘置所の正門を出た。報道陣や夫の吉田など数人が出迎えた。劇場関係者の姿はなかった。一条は世間の冷たさを知った。 『歌舞伎の起源は「ストリップ」…⁉伝説の踊り子を崇拝した俳優が語る、「権力」と「わいせつ芸」の意外な関係』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)