世界No.1バリスタ井崎英典「海外で仕事をしていると、日本という国が弱っていっていることを実感する」
2014年、24歳にしてアジア人初の世界No.1バリスタに選ばれた井崎英典さん。チャンピオンになって自分の無知を痛感したという彼が挑んだのは日本の美を感じられる新しいコーヒー体験の創造。完全予約制のコーヒーバー「珈空暈」(こくうん)とはどんな店なのか? 大人の“カッコいい”を取り戻せ Vol.07
都内某所にある完全予約制のコーヒーバー「珈空暈」(こくうん)。同店を立ち上げたのは、1990年生まれの井崎英典さん。2012年に史上最年少でジャパン・バリスタ・チャンピオンシップにて優勝し、2014年には、ワールド・バリスタ・チャンピオンシップで、アジア人初の世界チャンピオンに輝きました。 「これで僕の人生、バラ色だ」と思った井崎さんですが、世の中そんな甘くはなく、厳しい現実に直面します。悩んだ末に2007年の世界チャンピオンで、今は世界随一のコーヒー系Youtuberであるジェームス・ホフマンに「僕はこのままでいいんだろうか」相談したのですが……。
「スペシャルティコーヒーを伝える」ことは僕の使命
── ホフマンさん、どんなことをおっしゃっていました? 井崎英典さん(以下、井崎) 「ヒデ、わからないことをわからないと言えるようになってこそ一流だ」と。そして「自分が得意な領域、自分にしかできないことを見極めろ」とアドバイスをもらって、肩の荷が下りました。そこで、初めて自分の得意なことを考え、やがてコーヒーを通して上質なライフスタイルを提案していくことに行きつきます。
── くわしく聞かせてください。 井崎 大手のコーヒーチェーンやF&Bチェーンをつなぐ、世界チャンピオンがいてもいいんじゃないかと思ったんです。ちょうどスペシャルティコーヒー(※)が盛り上がり始めていた頃でしたが、当時まだ、ギークな飲み物だったコーヒーが市民権を得ていくためには、まずはマス向けのコーヒーを美味しくしていく必要があると考えました。 ※スペシャルティコーヒーとはコーヒーをカテゴライズする言葉の一つ。日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)によると、スペシャルティコーヒーとは「消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること」と指す。 ── それが井崎さんのやりたいことだった? 井崎 やりたいことではなく、どちらかというと、やらなければならないことですね。「スペシャルティコーヒーの魅力を伝える」ことは僕の使命だとも思っています。 例えば、カメラやクルマ、時計、洋服のような嗜好品って、究極、別にこだわらなくてもいいものじゃないですか。着るものなんてなんでもいいし、食べ物だって美味しいものを食べなくてもサプリメントで栄養を摂取すれば生きていける。クルマだって、移動さえできればなんだっていい。でも、そういった嗜好品にこだわるのが、人間らしさだと僕は考えてます。そして、コーヒーもそのレベルのものに昇華させたいと強く思っています。