旅行作家が忘れられない「朝ごはんが美味しい宿」絶妙なバランスに美学を感じる素朴で贅沢な朝食
漆の器がまたいい。昭和三年に旅館を創業する以前は瓦屋を営んでいた先祖が、自宅での冠婚葬祭に用いたという年代もので、漆の赤に野菜の彩りが映える。 四代目の主人は、継承した宿を「百年先に引き継ぐこと」を目的に改装、コロナ禍のさなかに再開業した。素材に忠実で、余分なものをそぎ落とした宿の哲学は、建築やインテリアのみならず、朝食にも感じられた。 具沢山の味噌汁も美味しかった。朝食の味噌汁には伊勢エビなんかいらない。素朴に野菜がたっぷり入っているのがいい。 野菜の具沢山味噌汁と言えば、思い出すのは、「里山十帖」の朝食である。ゲストが自ら味噌を入れて仕上げるので、出来たてが頂ける。 宿がある新潟県の魚沼は、言わずと知れた米どころ。ここも、まさにご飯を美味しく頂くことに力点をおいた、シンプルな朝食だ。私のお気に入り宿のひとつなのだが、季節感にあふれた夕食(特に保存食の多い冬は秀逸)もさることながら、この朝食もリピートしてしまう理由なのかもしれない。 〈写真〉木造で鴨居の低い建物に合わせて、家具も重心の低いものに統一。明治時代から続く松本の「前田木藝工房」の前田大作さんによる製作。 【金宇館】 長野県松本市里山辺131-2 IN15時 OUT11時 全5室 一泊2食付き2名1室1名 28,600円~(サ込、入湯税別)