【解説】東京電力 世界最大級の原発で核燃料装填開始 ~柏崎刈羽原発“再稼働”の意味
■首都圏の電力不足の解消は?電気料金の値下げは?
一方で、柏崎刈羽原発が仮に再稼働した場合のメリットとはいったいなにか。電力供給量と電気料金を見てみよう。 先にも述べたが、東日本大震災以降、国内にある原発は順次停止し、2013年には全ての原発が停止した。その後、福島第一原発事故の教訓から厳しくなった新規制基準が施行され、現在国内に33基ある原発のうち、安全審査に合格し再稼働した原発は12基となっている。 しかし、この12基は全て西日本に立地する原発であり、東日本(北海道・東北・東京電力管内)で再稼働した原発はゼロ。日本の電力システムは世界にもまれな東西日本で周波数が違うため、電力が比較的余裕のある西日本から電力を融通してもらうことは基本的にできない。ここ数年、東日本では毎年のように夏・冬の電力不足が問題になっているが、これは原発が再稼働していないことも大きな要因となっている。 大停電を避けるため電力の予備率が3%以下となると、国は「電力ひっ迫警報」を発令し企業や家庭に節電を要請する。2022年3月21日には初の警報が発令され、ここ数年、東日本の電力需給は綱渡り状態といえる。電力関係者によると、仮に柏崎刈羽原発の6号機7号機の2基が再稼働すると、東京電力管内ではひっ迫時に5%程度の予備率が上積みできるという。安定供給に万全とは言えないが、ひっ迫のリスクは若干緩和すると見込まれている。 では電気料金はどうだろう。東京電力は、6号機と7号機の再稼働をすでに織り込んで、現行の電気料金を設定していて、再稼働しない場合と比べて標準家庭(月260kWh使用)で100円程度安くなっているとしている。今後、停止中の柏崎刈羽原発の1号機から5号機が再稼働するとなれば、より値下がりする可能性はある。しかし、現時点で東電は判断をしておらず、仮に再稼働するにしても安全審査や対策工事に数年単位の時間が必要となる。
■KK再稼働が象徴的な意味とは
家庭にとっては電気料金の負担軽減はわずかな額にとどまる一方、政府や電力関係者にとっては、柏崎刈羽原発の再稼働は“象徴的な意味”を持つ。それは、柏崎刈羽原発があの「東京電力」の原発であり、そして福島第一原発と同型の「沸騰水型(BWR)」といわれる原子炉であることだ。 実は2011年以降、事故を起こした福島第一原発と同型炉が再稼働した例はない。 原発は大きく分けて「沸騰水型(BWR)」と「加圧水型(PWR)」の2種類が存在する。主たる違いは「発電用タービンを、どこで発生した水蒸気を使って回すか」だ。技術的な話は割愛するが、結果的に原子炉を覆う格納容器がBWRは小さく、PWRは大きくなる。原子力に詳しい専門家によれば、この違いで、PWRではシビアアクシデント時に水素爆発が起きる可能性が低くなると言われている。また、福島での事故時にも実施した、原子炉容器内の放射性物質を含む気体を大気に放出して圧力を下げる作業、いわゆる「ベント」作業を行う可能性も低くなると言う。 この違いから、「沸騰水型(BWR)」の安全審査は厳しくなり、結果的に法律上必要な手続きを終えても、最後の地元の同意を得るハードルが高い要因ともなっていると言う。ちなみに国内の原発(全33基)のうち、BWRは約半数の17基。東日本にある原発は主にBWRだ。 「KKの再稼働は経済産業省の悲願だ」と、国のエネルギー政策を担う関係者は言う。福島第一原発の事故の一端を負う経産省は、いわば東電と一連託生。事故賠償費用などの多くを国債として東京電力に貸し付けている。その意味で、国は柏崎刈羽原発の再稼働により「東京電力」の収益改善を期待している。 政府や電力関係者にとっては、柏崎刈羽原発の再稼働には、この13年間「ご法度」だった「東京電力」の再出発という意味があるほか、福島第一原発と同型である「BWR」原発の再稼働が果たせたという意味を持つ。いわばあの原発事故の「禊ぎ」の位置づけだ。そして、さらに政府がその先に見据える原発を主力に据えた「脱炭素」戦略への環境整備のため、実現したい”悲願”なのではないだろうか。 通称KK。柏崎刈羽原発の再稼働には多くの関係者の思惑が交差する、象徴的な原発なのである。