空飛ぶ「クロネコヤマト」自社便で運ぶ荷物の中身、導入費用は130億円、スピード勝負の費用対効果
■当初は社長も懐疑的だった 物流サービスにとってスピードは付加価値になるものの、なぜヤマトは自社便での運航にこだわったのか。 検討を始めたのは2019年。物流業界では、残業時間の上限が課せられる「物流2024年問題」が見えていた時期だった。 トラックの輸送コストは年々上昇し、毎年のように自然災害も発生している。リスクへの備えとして、トラックと鉄道、海上に加えて航空輸送もメニューに加える必要性を検討することとなった。当初は長尾裕社長も含め、社内からは「本当に飛ばすのか?」という声もあったという。
以前からJALやANAに委託して荷物を運ぶことはあったが、旅客便を前提とした路線だ。自社便ならば荷物の需要に合わせて、飛ばしたい場所へ飛ばすことができる。新たなビジネスを広げるために自社便の導入は欠かせないと、役員を含めて社内のコンセンサスは固まっていった。 そしてJALグループのスプリング・ジャパンが実際の運航を担う形で提携が決まり、今年4月の就航にこぎ着けたというわけだ。 ヤマトにとって空は難しい領域でもあった。当然、安全面の確保は第一となる。荷物の積み込み一つをとってもトラックとは異なる。飛行機は重量のバランスが重要だ。コンテナ1個の重さまで計算する必要があり、どのように荷物を積み、重量を調整するかという点は課題だった。
現役機長でもあるスプリング・ジャパンのオペレーション本部長・上谷宏氏は「貨物機はその日の重量のバランスを考えて飛んでいる。着陸などの際にも非常に気を遣う」と話す。 また、悪天候だと機体に燃料を多く積むケースがあり、運ぶ荷物の量を抑えなければならない。そうした場合はトラックや鉄道の代替輸送を手配する必要が生じる。空港で荷物を扱うセンターの作業や人員配置なども含め、貨物機のビジネスはまだまだ発展途上だという。
■宅急便以外の顧客も開拓 現在、ヤマトは法人営業部の中で、貨物機の営業を担当するチームを作り、営業を進めている。貨物機が就航している地域に担当者を置き、現在は約50人。北海道・関東・九州の主管(宅配の拠点)に一人ずつ担当がいるイメージだ。セールスドライバーや法人支店の営業担当者が開拓してきた案件に対し、貨物機の担当者が提案などを行い、稼働までの時間を短縮している。 近年のヤマトは大企業の供給網の一部を担うなど、法人向けの新規開拓を強化してきた。貨物機では宅急便で付き合いがなかった顧客の獲得も進んでいる。「当初、九州から新千歳へ飛ばすことは考えていなかったが『飛ばすなら乗せたい』と顧客から相談され、冬に生鮮品が採れない北海道へ九州から野菜を送るなど、後々見えてきた需要もあった」(貨物航空輸送オペレーション設計部の鈴木達也部長)。